抄録
様々な物質の中に広く含まれているストロンチウム(Sr)とネオジム(Nd)の安定同位体比は,その物質の地質起源によって大きく異なり,大気輸送や堆積過程の物理的,化学的条件にも左右されにくいことから,生物地球化学的プロセスを介した物質循環をトレースする有効な方法として広く利用されている.本研究では,アジア高山域の4つの氷河(アルタイ・天山・祁連山・ヒマラヤ)の表面に堆積している物質(クリオコナイト)を化学的に5つの成分(4つの鉱物と有機物)に分離し,それぞれに含まれるSr,Nd 同位体比の特徴を明らかにすることを目的とした.クリオコナイト中のケイ酸塩鉱物の同位体比は,各成分の中で最も高い値を示し,緯度が高い氷河ほどSr比が低くてNd比が高いという傾向を示した.その値は,それぞれの氷河周辺のレスや砂漠の砂や河川堆積物の値に近くなった.このことは,各氷河のケイ酸塩鉱物(風送ダストの主成分)の供給源は異なり,それぞれの氷河周辺であることを示している.塩類,炭酸塩,リン酸塩鉱物成分の各同位体比も,それぞれの鉱物の起源となる砂漠や地域の値を反映しており,有機物成分の同位体比は, 氷河上の微生物が利用した栄養塩源の鉱物の値を反映していると考えられる.