雪氷
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73 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 竹内 望, 角川 咲江, 武藤 恭子
    2011 年 73 巻 5 号 p. 271-279
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス
    雪氷藻類とは,雪や氷の表面で繁殖する光合成微生物である.2005 年から2010年にかけて, 滋賀県の伊吹山の山頂(標高1377 m) 付近の残雪で,雪氷藻類の調査を行った.藻類の大繁殖を示す赤雪や緑雪のような肉眼で見える着色雪はみられなかったが, 残雪表面から採取した積雪の顕微鏡観察の結果, 形態の異なる主に2 つのタイプの雪氷藻類細胞を確認した. この藻類は, 日本をふくめ世界各地で報告されているChloromonas nivalis に形態がほぼ一致し, 二つのタイプはこの種のそれぞれ発達段階の異なる休眠胞子と考えられる. 観測を行った各年4 月下旬の残雪には, ほぼすべてにこの藻類細胞が含まれていたことから, 毎年この時期に残雪上に現れるものと考えられる. 藻類バイオマスおよびクロロフィル量の測定の結果, それぞれ他の地域で報告されている赤雪等の着色雪と比べ低い値を示した.2007 年4 月に二回の調査を行った結果, この藻類の繁殖時期は, 3 月中旬から5 月上旬までの1ヶ月半の融雪期間のうち, 消雪直前のわずか1-2週間であることがわかった.
  • 鈴木 啓助, 池田 敦, 兼子 祐人, 鈴木 大地, 槇 拓登
    2011 年 73 巻 5 号 p. 281-294
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス
    北アルプス西穂高岳付近の標高2352m 地点で2010 年1月11日に積雪試料を採取し, 山岳地域における冬季降水量を雪氷化学的手法により推定した.降雪の化学特性のひとつめは,降雪中のNa+濃度と対流混合層の高さとの間に良好な相関が認められることである. つまり,降雪中の海塩起源物質濃度は冬型の気圧配置時に高くなる. ふたつめは,降雪中の人為起源の酸性物質濃度は南岸低気圧や日本海低気圧による降水で高くなることである.さらに,降雪中の酸性物質の割合は低気圧性の総観場で高くなる.積雪深が399cm の積雪層から化学的に特徴的な9層が抽出された. そのうち,3層は冬型の気圧配置によってもたらされ堆積したと考えられ, 他の6層は低気圧性の雪雲によってもたらされたと考えられる. それぞれの層が形成されたと考えられる日付が,気象条件を参照して同定された.次に,隣り合うふたつの層の間の8期間の積雪水量を算出し,気象庁による観測降水量と比較検討した.その結果, 積雪水量は調査地域の北西の観測地点における期間降水量との相関が高く, 南東の観測地点の期間降水量とは良好な相関が認められなかった. これらの関係は, 調査地域における冬季の気象条件を考慮すれば妥当な結果である.
  • 岩間 真治, 渡辺 幸一, 上原 佳敏, 西元 大樹, 小森 静, 齋藤 由紀子, 江田 奈希紗, 善光 英希, 島田 亙, 青木 一真, ...
    2011 年 73 巻 5 号 p. 295-305
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス
    2010 年春期の立山・室堂平(標高2450m)における積雪試料中のイオン成分,ホルムアルデヒド(FA)および過酸化水素濃度(H2O2) の測定を行った. nssCa2+やNa+には数回の高濃度のピークがみられ, 高nssCa2+濃度層について,観測された黄砂現象日をもとに堆積期日の特定を試みた. nssCa2+と共にnssS042- も高濃度であった事例については,気塊がアジア大陸の乾燥地帯から黄海沿岸部の工業地帯上空を通過して輸送されていたものと考えられた.積雪中のFA およびH2O2 濃度は,富山県の平野部における暖候期の降水中の濃度よりも一桁低い値であった.H2O2 濃度は,積雪表層の新雪部で濃度が高く,それより下層で低濃度であった.H2O2 とFA は,積雪内での濃度変化が大きい物質であるが,H2O2 の方がより濃度低下が大きいものと考えられる.FA は人為起源イオン成分と類似した濃度分布を示した.
  • 永塚 尚子, 竹内 望, 中野 孝教, 古角 恵美
    2011 年 73 巻 5 号 p. 307-319
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
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    様々な物質の中に広く含まれているストロンチウム(Sr)とネオジム(Nd)の安定同位体比は,その物質の地質起源によって大きく異なり,大気輸送や堆積過程の物理的,化学的条件にも左右されにくいことから,生物地球化学的プロセスを介した物質循環をトレースする有効な方法として広く利用されている.本研究では,アジア高山域の4つの氷河(アルタイ・天山・祁連山・ヒマラヤ)の表面に堆積している物質(クリオコナイト)を化学的に5つの成分(4つの鉱物と有機物)に分離し,それぞれに含まれるSr,Nd 同位体比の特徴を明らかにすることを目的とした.クリオコナイト中のケイ酸塩鉱物の同位体比は,各成分の中で最も高い値を示し,緯度が高い氷河ほどSr比が低くてNd比が高いという傾向を示した.その値は,それぞれの氷河周辺のレスや砂漠の砂や河川堆積物の値に近くなった.このことは,各氷河のケイ酸塩鉱物(風送ダストの主成分)の供給源は異なり,それぞれの氷河周辺であることを示している.塩類,炭酸塩,リン酸塩鉱物成分の各同位体比も,それぞれの鉱物の起源となる砂漠や地域の値を反映しており,有機物成分の同位体比は, 氷河上の微生物が利用した栄養塩源の鉱物の値を反映していると考えられる.
  • 飯田 俊彰, 石井 周作, 梶原 晶彦
    2011 年 73 巻 5 号 p. 321-330
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス
    積雪が部分的に凍結融解を繰り返す過程で固相の氷から液相の水への溶存イオンの移動が起こり,融雪初期にイオン濃度の高い融雪水が流出する現象が知られている. この現象のモデル化に応用するため, 本研究では, 融解時の積雪固相の塩化物イオン濃度の減少率を無次元化し, 固相の積雪水量の減少率の関数として定式化することを試みた. 制御された条件下で一定時間融解させた自然積雪および人工の模擬積雪の試料を遠心分離し, 分離された液相および残った試料の溶存塩化物イオン濃度を測定した. その結果, 固相の塩化物イオン濃度はいずれの実験ケースでも融解時間とともに減少し,融解開始後6時間までの間にほとんどの固相の塩化物イオンは液相へ溶出した. 一方, 液相の塩化物イオン濃度は,融解時間に伴う明瞭な傾向を示さなかった.固相の積雪水量の減少率と固相の塩化物イオン濃度の減少率との間の関係が明らかにされ, 前者が小さい場合でも後者は大きく増大することが示された. 得られたデータを用い, 融解時の固相の塩化物イオン濃度の減少率が, 固相の積雪水量の減少率の簡単な関数として表わされた.
  • 中西 佑介, 竹中 規訓, 定永 靖宗, 坂東 博
    2011 年 73 巻 5 号 p. 331-338
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス
    メタン, エタン, メタノール, エチレン, ベンゼンと純氷との相互作用の温度依存性および吸着エンタルピーを求めた. メタン, エタン, エチレン, ベンゼンは同程度の相互作用を示し, メタノールの氷への吸着は, それらより253 K において2 ~2.7倍程度強かった. メタノール, エチレン, ベンゼンに対しては263 K 付近を境に吸着挙動の大きな違いがみられた. これは擬似液体層の存在が関与していると考えられる.メタン,エタンの吸着エンタルピーは,253-271 K の間で一定であったが, メタノールの吸着エンタルピーは,温度依存性を示した.エチレンおよびベンゼンの吸着エンタルピーは,263 K 付近を境に高温側と低温側で異なる値が得られた.
  • 赤田 尚史, 柳澤 文孝, 鈴木 利孝, 岩田 尚能, 長谷川 英尚, 上田 晃
    2011 年 73 巻 5 号 p. 339-345
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス
    南極・昭和基地周辺において採取された表層積雪に含まれる硫黄の安定同位体比について分析を行った.その結果,表層積雪の硫黄同位体比は+17.4~ +20.1‰ の範囲で,平均(±S.D.)18.8±0.9‰であった.海塩寄与率を10 ~50 % と仮定して非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比を求めた結果, 平均+18.1±1.4‰ の値が得られた. このことから, 近年の南極の地域における生物活動起源揮発性硫黄化合物(DMS,MSA,SOx)に起因する硫黄の同位体比は, +18 ‰ 前後であると推定された.
  • 樋口 敬二, 伏見 碩二, 西村 有香里, 三田 恵里, 高橋 良幸, 神田 健三, 角川 咲江, 嶋林 栄
    2011 年 73 巻 5 号 p. 347-357
    発行日: 2011年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス
    滋賀県東近江市にある「西堀榮三郎記念 探検の殿堂」の氷貯蔵庫の壁に,全体が7cm を超える巨大霜結晶が成長していることが1998 年に判明し,話題となったが,その後, 観察, 測定等が進められ,霜結晶の形態と成長について, 次のような成果が挙げられた. 霜結晶は氷貯蔵庫内のほとんど風のない所でゆっくり成長し,1辺が2cm 程度の巨大霜結晶は2ヶ月近くかかって成長する. 霜結晶にはコップ型, 針状, 角柱, 角板の結晶形があり, それぞれが成長する温度範囲は中谷宇吉郎, 小林禎作による人工雪の実験結果と近い値であった. 結晶の中で特徴的なのは, コップ型であり, 六角形の巻き込み構造(Scroll form) が発達しており,巻き込みの回数は時間とともに増加する過程などが観察された. 同じようなコップ型の巨大霜結晶はグリーンランド, 南極のクレバスにおいて観察されている.一方, 氷貯蔵庫内に成長した巨大霜結晶のレプリカを7 ~8 % の溶液によって作成することに成功し,研究大会で展示して奸評を得た.今後の研究課題としては,実験装置内で巨大霜結晶を成長させ,巻き込み構造の成長過程を解明することが挙げられる.
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