雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
アジア山岳域の氷河生態系
竹内 望
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ジャーナル オープンアクセス

2014 年 76 巻 1 号 p. 91-103

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抄録

氷河には雪氷環境に適応した特殊な生物が生息している.近年,世界各地の氷河で生物の存在が明らかになる中,アジアの山岳氷河の生物群集には特有の特徴があることがわかってきた.光合成で有機物を生産する藻類群集では,アジア山岳氷河にはシアノバクテリアが他の地域に比べ豊富に存在する.シアノバクテリアは氷河表面でクリオコナイト粒という構造体を形成し,氷河表面を覆ってアルベドを下げることから,アジアの山岳氷河はこの生物による融解の促進効果が他の地域に比べ大きい.さらにアジアでも,南部のヒマラヤから北部のアルタイにかけて氷河上の微生物群集は異なることがわかってきた.これは緯度方向に大きく変化する気候や植生の影響を微生物が受けているためと考えられる.バクテリアに関してもDNA分析の普及にともなって,その分類や群集構造が明らかになり,地理分布や気候との関係も議論できるようになってきた.アイスコアの微生物分析からは,生物群集の時間的変化や気候変動との関係も明らかになりつつある.アジア山岳の生物群集の情報は,近年の地球温暖化などの気候変動に対する全球スケールの雪氷圏や氷河生態系の変化を理解する上でも,非常に重要な役割を果たすと考えられる.

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© 2014 公益社団法人 日本雪氷学会
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