雪氷
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76 巻, 1 号
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  • 三宅 隆之, 植竹 淳, 的場 澄人, 坂井 亜規子, 藤田 耕史, 藤井 理行, 姚 檀棟, 中尾 正義
    2014 年 76 巻 1 号 p. 3-17
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    アイスコアからの過去の気候・環境変動復元の手がかりとするため,2004年8月・9月に中国西部・七一氷河表面の雪と氷および降水を採取し,化学分析を行った.氷河表面の雪と氷の平均pHは7.07だった.総陽イオン濃度と総陰イオン濃度の差(ΔC)とCa2+濃度とMg2+濃度の和の間の相関はr=0.98と,非常に高かった.Ca2+,Mg2+とΔCは土壌や黄土中の炭酸塩鉱物を起源とし,氷河表面の雪と氷のpHへの影響が示唆された.これらは天山の氷河と同傾向で,七一氷河の化学組成は,乾燥・半乾燥地のダストの強い影響が考えられた.氷河表面のNa+濃度とCl濃度の相関はr=0.93と高く,Na+/Cl比が平均1.00±0.13だったことから,主要な起源は岩塩と考えられた.降水と氷河表面の雪と氷のイオン成分の割合を比較すると,Ca2+,Mg2+,ΔCがいずれも優先し,かつ降水に比べ雪と氷で顕著に大きくなった.これらは融解-再凍結過程によるダストからの溶解と乾性沈着の影響と考えられた.主成分分析の結果から,NH4+を除く氷河表面の化学成分は,土壌・ダスト起源,人為活動起源,岩塩起源に区分可能と推察された.
  • 澤柿 教伸, 山口 悟, 阿部 洋祐
    2014 年 76 巻 1 号 p. 19-31
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    氷河の平衡線高度(ELA)は,地域的な気候条件を示す重要な指標である.古環境の復元においては,paleo-ELA を推定する際,氷河の涵養域比(AAR)がよく用いられてきたが,AARには,簡便さの反面,氷河の個体差や降水条件に左右される問題点が指摘されているのに加え,AARの算出の根拠となる氷河の復元が,動力学的あるいは質量収支的に妥当かどうかという視点で検証された例はほとんどない.本研究では,簡便さをそなえつつAAR法には頼らないELAの決定方法として,3次元形状を与えた氷河に対し,数値モデルを用いてその流動場を計算し,その結果を基に表面における質量収支の符号を推定し,その正負が反転する高度をELAとして算出するモデルの開発を試みた.また容易に氷河の流動や表面形状に関する諸条件を設定できるようにして,それらの寄与度を検討できるようにした.開発したモデルを氷厚分布が比較的良く明らかにされているスイスとスウェーデンに現存する氷河に適用して妥当性を検証した結果,モデルの計算値は観測値と同様のELA を示し,このモデルの妥当性が確認された.また,計算条件の設定を変化させた結果から,氷河の流動に関する諸条件の違いは本モデルを用いたELAの復元に直接的に寄与しないことが示された.一方,基盤地形の起伏により流動方向に氷厚が大きく変化する氷河では,複数の高度にELAが検出され,氷河表面形状や基盤地形の再現度合いがELAの復元を左右する重要な要因となることが示された.
  • 澤柿 教伸, 山口 悟, 阿部 洋祐
    2014 年 76 巻 1 号 p. 33-43
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,氷河の形状復元と流動モデルの融合による平衡線高度決定モデル(SR モデル)を,日高山脈北部地域に後期更新世に発達した氷河の復元例に適用して過去の氷河の平衡線高度(paleo-ELA)の検出を試みた.その結果,氷河の表面形状を考慮した場合としない場合とで,SR モデルによって求められたpaleo-ELAに違いがみられた.また,基盤地形の起伏により流動方向に氷厚が大きく変化する氷河では,複数の高度にpaleo-ELAが検出された.これらの結果は,氷河表面形状や基盤地形の再現度合いが,paleo-ELAの復元を左右する重要な要因となることを示している.また,モデル計算の結果に応じて試行錯誤で氷河の形状や流動に関する諸条件を再調整することで,動力学的あるいは質量収支的観点から見て,過去の氷河をより正確に3次元で復元できる可能性を示した.
  • 松尾 功二, 日置 幸介
    2014 年 76 巻 1 号 p. 45-57
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    重力衛星GRACEやレーザー高度衛星ICESatのような宇宙測地衛星が台頭したことで,アジア高山域が有する広大な山岳氷河群の質量収支を,遠隔から連続的に計測できるようになった.これまでMatsuo and Heki(2010)とJacob et al.(2012)によって,GRACE重力データから,アジア高山域の氷河質量収支が推定された.しかしながら,その結果は,前者が年平均−47Gtの顕著な減少,後者が年平均−11Gtの僅かな減少,と互いに大きく異なっていた.本稿では,これら2つの研究について詳しく解説し,GRACEでアジア高山域を観測する際に配慮すべき幾つかの重要点を記述する.それらを把握した上で,新たなGRACE データ(Release05)と解析手法を用いて,アジア高山域の氷河質量収支を再推定する.最後に,ICESatを用いた近年の研究報告について解説する.
  • 瀬川 高弘, 牛田 一成, 幸島 司郎
    2014 年 76 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    氷河生態系は非常にシンプルな構造を持つため,土壌や海洋などの種構成が複雑な生態系では解析に困難を生じる生態学的研究の理想的な研究対象となる.また,アイスコア中の微生物は,古環境復元の新たな環境指標にもなる.たとえば,氷河上には雪氷環境に適応したごく少数の種類のバクテリアが増殖し,それぞれ氷河上流部,中流部,下流部など氷河の異なる環境に適応している.一方,土壌,海洋,動物腸内などから分離されたバクテリアも多数氷河から検出されることもわかってきた.本研究では,氷河から動物の腸内細菌が多数検出されたことから,動物の腸内で発生と伝搬している抗生物質耐性菌の耐性遺伝子の検索を行った.その結果,北極や南極を含む地球上の広い範囲の氷河から多くの耐性遺伝子が検出された.耐性菌の環境中への放出と伝搬は,人間の社会活動が環境に与えたインパクトの一つであると考えられる.人間の社会から隔絶していると考えられる雪氷環境は,そのインパクトを評価することを可能にする.
  • 藤田 耕史
    2014 年 76 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2009年にScience誌の指摘で明らかになった,IPCC第四次報告書におけるヒマラヤの氷河に関する誤った記述は,「ヒマラヤ氷河スキャンダル」もしくは「グレーシャーゲート」などと呼ばれ,その後,他の分野においても信頼性に乏しい記述が次々と明らかになったこともあり,IPCC全体の信頼性を揺るがす一大スキャンダルとなった.その一方で,世界の氷河研究コミュニティがヒマラヤを含むアジア高山域の氷河に目を向けるきっかけにもなり,ここ数年の短期間に数多くの研究成果が発表された.本稿では,このヒマラヤ氷河スキャンダルの経緯と原因,IPCCの対応を振り返ると共に,このスキャンダル以降に発表された論文を概観し,アジア高山域における氷河研究の現状と今後の展望を述べる.
  • 坂井 亜規子
    2014 年 76 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ヒマラヤ・カラコラム山域の氷河は水資源として重要であることで知られているが,この地域に多く分布する岩屑に覆われた氷河(デブリ氷河)については,未だ広域で融解量や流出量を推定するには至っていない.岩屑に覆われた氷河の融解量分布は,1990年代に熱抵抗値を導入することにより,様々なデブリ厚の部分を含む氷河全体で推定可能であることが示されたが,岩屑層の厚い部分に適用すると,融解量を過大評価してしまう点が課題として残されている.近年ヨーロッパを中心に,物理モデルを使用し,岩屑に覆われた氷河の融解量分布を推定しようとする動きが広がっているが,計算に必要な岩屑の厚さ,熱伝導率などの分布を得ることは困難であり,モデルを広域に適用する際のハードルとなっている.今後物理モデルにもとづいた先行研究の結果も取り入れながら,広域における岩屑に覆われた氷河の融解量推定に向けて,熱抵抗値を使用したモデルを改良していく必要がある.
  • 竹内 望
    2014 年 76 巻 1 号 p. 91-103
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
    氷河には雪氷環境に適応した特殊な生物が生息している.近年,世界各地の氷河で生物の存在が明らかになる中,アジアの山岳氷河の生物群集には特有の特徴があることがわかってきた.光合成で有機物を生産する藻類群集では,アジア山岳氷河にはシアノバクテリアが他の地域に比べ豊富に存在する.シアノバクテリアは氷河表面でクリオコナイト粒という構造体を形成し,氷河表面を覆ってアルベドを下げることから,アジアの山岳氷河はこの生物による融解の促進効果が他の地域に比べ大きい.さらにアジアでも,南部のヒマラヤから北部のアルタイにかけて氷河上の微生物群集は異なることがわかってきた.これは緯度方向に大きく変化する気候や植生の影響を微生物が受けているためと考えられる.バクテリアに関してもDNA分析の普及にともなって,その分類や群集構造が明らかになり,地理分布や気候との関係も議論できるようになってきた.アイスコアの微生物分析からは,生物群集の時間的変化や気候変動との関係も明らかになりつつある.アジア山岳の生物群集の情報は,近年の地球温暖化などの気候変動に対する全球スケールの雪氷圏や氷河生態系の変化を理解する上でも,非常に重要な役割を果たすと考えられる.
  • 縫村 崇行
    2014 年 76 巻 1 号 p. 105-114
    発行日: 2014年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
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