2023 年 85 巻 2 号 p. 115-131
石川県と岐阜県の県境にまたがる白山にある,多年性の千蛇ヶ池雪渓を対象として,雪渓の雪面低下量計測と気象観測を3夏期間にわたって行った.夏期における雪面熱収支特性を明らかにするとともに,雪渓の融雪過程と気象との関係について分析し,気象条件や熱収支特性が雪渓の雪面低下量の年変化にどの様な影響を与えているのかを検討した.その結果,3夏期間における雪渓表面の熱収支項の平均値は,純放射量447 W m-2(短波放射量309 W m-2,長波放射量138 W m-2),顕熱輸送量140 W m-2,潜熱輸送量180 W m-2,降雨熱輸送量39 W m-2であった.また,降雨時と無降雨時にわけて融雪熱量を求めたところ,降雨時が349~560 W m-2,無降雨時が157~246 W m-2となっており,降雨時の方が大きいことが示された.さらに,年ごとの雪面低下量への寄与が高いのは正味短波放射量であるが,日積算雨量50 mm以上,日平均風速7 m s-1程度以上の悪天候イベントの発生頻度次第で潜熱輸送量は大きく変動し,年ごとの雪面低下量に違いが生じうることがわかった.