2026 年 88 巻 4 号 p. 283-294
融雪期の積雪表面に形成される「雪えくぼ」には,雪氷藻類の繁殖による赤雪や緑雪などの彩雪現象が現れることがある.しかし,雪えくぼ内において,藻類がどのように繁殖し彩雪現象を引き起こすのか,その実態は明らかになっていない.本研究では,信越地方苗場山山麓に見られた雪えくぼを対象に,積雪断面の連続写真撮影によって彩雪の3次元空間分布を明らかにすることで,藻類の繁殖過程を考察した.顕微鏡観察の結果,雪えくぼの緑雪中には主に緑藻のクロロモナス属の遊泳細胞が含まれていることがわかった.3次元分布解析により,緑雪は雪えくぼの表面下約3 cmを中心に直径10-13 cmの円盤状に広がり,その水平分布は雪えくぼの最深部から南側に偏っていることがわかった.この分布は,藻類細胞が融解水の流れによって受動的に集積するだけでなく,細胞の遊泳能力によって,繁殖に最適な光や水分条件の領域に移動している可能性を示唆している.以上の結果から,雪えくぼ下部では,豊富な融解水という物理環境と,遊泳細胞による能動的な環境選択という生物の戦略が組み合わさることで,特有の緑雪分布が形成されるものと考えられる.