抄録
1995年7月11~12日にかけて,北アルプス北部の白馬大雪渓周辺で集中豪雨が発生し,大雪渓を含む流域の上部で土石流が発生して雪渓上の広い範囲が堆積物に覆われた.それにともなって,白馬大雪渓上に長さ約1.3 km,幅6~8 m,深さ10~20 mの大規模な溝が形成された.溝は土石流堆積物分布域の中央を,雪渓上端から下端付近までほぼ直線的にのびている.夏季の融雪にともなって溝は拡大し,10月18日には幅が15 m以上となった.その時点で溝の面積は雪渓(支谷をのぞく本流部分)面積の20%に達した.溝の側壁には帯水層や粒径30~50cmの角礫を含む砂礫層など,雪渓の内部構造がみられたが,連続した氷化層は確認できなかった.空中写真判読と現地調査によって得られた溝の分布や形態,さらに雪渓上の土石流堆積物分布域との位置関係から,この溝は大雪渓上を流下した土石流が積雪層を侵食したことによって形成されたものと推定した.白馬大雪渓では,過去にこのような大規模な溝の形成が1952年に起こっている.多年性雪渓の形成・維持機構の解明のためには土石流が雪渓に与える影響を評価する必要がある.