抄録
日本では,輸送用機械器具製造業は2001年から2008年まで8年連続で排出量が最多の業種であった。自動車製造業からの有害物質排出量を減らすことができれば,日本の環境リスクの削減に貢献できると考えられる。そこで本研究では,日本の化学物質排出移動量届出制度(PRTR)データと有害物質排出インベントリー(TRI)を比較することにより,日米の自動車製造業からの排出・移動量およびベンゼン換算発がん物質排出量の日米の違いを考察した。
その結果,日本の自動車生産一台当たりの総排出・移動量は2.9kg/台で米国の0.87倍,排出量は2.4kg/台で6.0倍であり,特にVOCおよびダイオキシン類の排出量が多いこと,両国とも水域への排出量は大気排出量の0.1%以下であること,ベンゼン換算値として求めた発がん物質の排出量は,日本の方が米国より4.0倍大きく,とくに,ジクロロメタンの換算排出量が多いことが明らかとなった。本論文は,日米の自動車産業から排出される有害物質量を毒性情報で重み付けすることによって,吸入発がん物質の総排出量について比較したはじめての論文である。