環境科学会誌
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一般論文
土壌流出モデルとマルチメディアモデルを組み合わせた流域スケールでの高疎水性物質の挙動予測
加賀 昭和鶴川 正寛近藤 明井上 義雄
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2011 年 24 巻 5 号 p. 449-461

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抄録
化学物質の環境動態を記述するマルチメディアモデルにおいて,移動・蓄積を支配する各物理過程の一般的記述法については検討が進んでいるが,モデルを実際に適用するとき,それらの過程に含まれている各パラメータの具体的な値を決めることが必要である。パラメータのうち,適用対象地域に固有なものは,対象地域のスケールと対象化学物質の物性によってもっとも重要となるパラメータが異なり,その推定方法についての検討は進んでいない。本研究では,流域のスケールで,POPsなどの高疎水性物の環境動態をマルチメディアモデルにより記述するときに重要なパラメータとなる,土壌粒子の降雨流出量を推定する方法を提案し,それを用いたモデルが化学物質の環境動態をどの程度適切に表現できるかを検証しようとした。土壌粒子流出にかかるパラメータを,局地性のあるSS濃度観測値との比較により決定するために,分布型水文モデルによる流出計算を利用し,得られた結果から流域全体を代表するパラメータを推定した。推定したパラメータを用いたマルチメディアモデルにより算出された,ダイオキシン類を対象とした環境濃度の計算結果は観測値とよく整合しており,モデルは,有機物への吸着能の高い化学物質や,環境中で粒子としての存在割合が高い水溶性の低い金属類などの,対象流域における環境動態の記述に有用と考えられた。モデルに用いられているパラメータの不確かさが計算結果に与える影響の大きさを検討するための感度解析,同様の手法を他の流域にも適用することで,本研究で提案したパラメータ推定法の有用性を示すこと,などが今後の課題である。
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© 2011 社団法人 環境科学会
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