環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
Print ISSN : 0915-0048
ISSN-L : 0915-0048
シンポジウム論文
富山型環境リテラシー教育モデルの実施と評価
-富山県立大学における全学環境教育を事例として-
九里 徳泰大西 可奈子渡辺 幸一林 節男楠井 隆史
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 24 巻 6 号 p. 531-539

詳細
抄録

富山型環境リテラシー教育モデルは,富山県立大学短期大学部,工学部において2006年度から試行の後,文部科学省に選定され4年間実施され,現在も継続して教育が行われている。本論文の目的は2つある。①単科の工科系大学において行われた全学環境教育の実践と実施された環境教育の社会心理学,環境教育学による評価を行うこと。②本教育モデルをさらに発展させ,持続可能な社会を構築するための教育,ESD(Education for Sustainable Development)との統合をし,工学部における新しい技術者教育として提案をすることである。1つ目の目的を達成するために本学独自の環境教育の評価体系を作成した。それは教育の効果を可視化し,教員・学生でその結果を共有し,学生一人一人が環境問題解決行動へと導く教育へと改善することにある。評価は学生一人一人の教育効果を測定するミクロ評価,環境教育を遂行する教育のガバナンスに関する評価のマクロ評価の2側面で行った。結果は,ミクロ評価においては全学的な環境教育,専門科目における認識・態度の変化があり,講演会では認識の変化があった。体験型学習では態度,技能において変化があった。参加型活動では,認識・態度に変化があった。全て予定していた教育成果が出たと言える。しかし,3点で改善点が検討された。①大人数の知識習得型講義では,ビジュアル教材を多用する講義,ディスカッションを用いる必要性,②体験型学習は1日だけでなく長期的に実施する必要性,③参加型活動においては,より自発的なグループ活動を促進する仕組みの必要性である。また,マクロ評価においては①評価方法の事前準備(プログラムの目標,目的,学習結果の測定),②評価結果が,組織での理解のためにつかわれているか,③他組織がラーニングツールとして使うことができるようなシステムになっているか,という問題点が発見された。最後に,本教育を環境調和型技術の創造者の育成・発展させるという目標には,環境教育の要であるREB(Responsible Environment Behavior)を基とした工学技術への適応プロセスの検討し,サステナビリティ概念をベースとした産業と連動したESDへと統合してゆくことが次のステップでは必要であると考えられる。故にEngineer Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための技術者教育)の提案を行った。

著者関連情報
© 2011 社団法人 環境科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top