環境科学会誌
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一般論文
利根川感潮域における出水期および平水期の細粒底質動態と微生物群集特性
坂上 伸生郭 永箕浦 靖久太田 寛行佐藤 嘉則渡邊 眞紀子石川 忠晴
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2013 年 26 巻 2 号 p. 128-139

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抄録
河川感潮域では,出水時は河川的状態,平水時は内湾的状態という著しく異なる環境に繰り返しさらされるため,底質の状態も時空間的に大きく変化する。本研究では,底質の基本的な化学性状を知る上で重要と考えられる有機・無機成分に着目して,出水・平水時の比較を通して有機物量と活性鉄,無機元素組成について調べた。さらに,底質の生化学的反応の知見を得るために,微生物分析を実施した。
本研究は利根川河口から河口堰までの区間を対象とし,採泥は河口2km 地点から18km 地点まで,2km 毎の澪筋でおこなった。化学分析に供試した底質試料は出水直後,移行期,そして平水期に採取したものを用いた。また微生物分析に供試した底質試料は概ね平水期に該当する時期に採泥したものを用いた。
出水直後には,多くの地点で粗粒化が認められた。移行期以降は全ての地点でシルト成分の顕著な増加が見られ,平水期にはほとんどの地点でシルトが分布していた。平水期に掛けて,易分解性炭素や活性鉄が下流側から増加する傾向が明らかとなった。塩水楔の溯上に伴う沈殿,あるいはエスチュアリ循環によって下流から輸送された細粒分が沈澱したと考えられた。細菌群集構造については地点間で顕著な違いがみられるとともに,各地点とも表層と次表層との間には群集構造に大きな違いがなく,それぞれ特徴的な細菌群集が形成されていることが明らかとなった。全地点で共通する主要グループはDeltaproteobacteriaであり,陸地土壌とは大きく異なっていた。3地点とも硫酸還元細菌などを含むグループが多く,それらは海側ほど多くなる傾向がみられた。利根川感潮域における底質の性質には,河川流動の影響が強く反映されていた。河川環境の動態サイクルの一員である微生物の群集特性からも,塩水の動きや嫌気化の進行によって生じる底質空間の多様性が明瞭に示された。
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© 2013 社団法人 環境科学会
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