環境科学会誌
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一般論文
気候変動適応策のための研究開発の推進メカニズム
-公設農業試験研究機関の状況と課題-
白井 信雄田中 充
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2016 年 29 巻 5 号 p. 238-249

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抄録

農業分野の公設試験研究機関に対するインタビュー調査により,気候変動適応に関する研究の推進メカニズムを明らかにした。促進要因と阻害要因の分析の結果,参照要因(垂直,水平)と属性要因(イノベーション属性と採用者属性)をあてはめて整理することができた。

気候変動適応研究の推進における特徴的な課題として,(1)公設農業試験研究機関の適応研究では地域間の連携が研究の促進要因となっているが,地域間の連携を阻む側面もあり,その解消が課題となっている,(2)公設農業試験研究機関では現場で既に発生している課題解決のための研究開発が中心となり,長期的な気候変動適応に関する地域の研究課題の方向性が十分に検討されていない,(3)農業経営における気候変動への感受性の改善に踏み込んだ適応研究開発が期待されるが,社会経済面に踏み込む必要性が十分に認知されていない,等が明らかになった。

上記の課題を解決するため,国においては,地域単独予算の研究の地域間のコーディネイトや,各地域の適応研究の成果を発表・共有する場を設けるような支援の方法もさらに検討の余地がある。また,公設農業試験研究機関における長期的な視点での適応研究や社会経済面に踏み込んだ研究を正当化する仕組みや工夫が必要である。

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