環境科学会誌
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2016年シンポジウム
モンゴル国Ulan Bator市周辺の遊牧家畜に対する鉛汚染調査
内藤 博敬 戸敷 浩介劉 庭秀Erdenedalai BaatarBuyantogtokh ChoijilsurenJavzandolgor TserendorjBolorchuluun Shukhee谷 幸則
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2017 年 30 巻 4 号 p. 274-281

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抄録

先進国は経済成長の過程で工業化とモータリゼーションを加速させ,その結果として重金属汚染を起こし,生態系に大きな影響を及ぼすことを経験してきた。モータリゼーションの進むモンゴルは世界的にも有数の遊牧民族であり,都市部周辺で遊牧される家畜を介したヒトへの影響が懸念される。そこで,モンゴル国Ulan Bator市における遊牧家畜の健康影響評価を目的として,血中鉛濃度の測定を行うこととした。2015年8月末に,Nalaih地区で鉛蓄電池を含む自動車廃部品のリサイクルを行っていると考えられた廃棄物処理施設付近に定住している農家,同施設付近で生活している遊牧民,Ulan Bator市街地から50 km離れた地域(Erdene sum地区)で遊牧されている家畜から採血し,LeadCareIISystem(Magellan Diagnostics)を用いて予備調査を行ったところ,家畜の血中鉛濃度はいずれも検出上限の65 µg/dLを超えていた(参考値:66~281 µg/dL)。この結果を受けて,2016年8月末の調査では,Ulan Bator市街地から東西南北に20~50 km程度離れた4地区を対象として家畜の血中鉛調査を行った。その結果,Ulan Bator市街地の南に位置するTuw-aimag地区以外では検出下限以下であった。2016年のモンゴルは春から継続的に降雨が続き,経時的に採血調査している同一個体の血中鉛が昨夏,今春と比べて今夏では1桁低かったことから,家畜の鉛暴露源である牧草に付着した鉛が恒常的な降雨によって洗い流された可能性が考えられた。また,Tuw-aimag地区は幹線道路に面していることから,廃棄物処理施設以外にも鉛汚染要因があることが示唆された。

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