環境科学会誌
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一般論文
中国の退耕還林政策に関する費用便益分析—特性の異なる3地域におけるケーススタディ—
成 双之 澤田 英司大沼 あゆみ
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2018 年 31 巻 1 号 p. 1-12

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抄録

本稿の目的は,特性が異なる複数の地域で実施される退耕還林を持続可能なプロジェクトとするための適切な農家への補助支給のあり方を明らかにすることである。1999年に開始された退耕還林は,十数年間で800万haの造林に成功したが,農家のプロジェクト参加の継続性と退耕還林の財政的持続性への懸念が強まっている。そこで,本稿は,2014年と2015年に中国の3都市(雲南省玉渓市・四川省南充市・吉林省大安市)でインタビュー調査を行い,調査データと政府の統計資料から各地域で実施される退耕還林の費用便益分析を試みた。分析結果では,まず,生態便益を含めた社会的純便益がどの地域でも大きく正の値をとった。さらに,私的純便益の大きさにもとづくと,適切な補助水準は大安市が一番大きく,南充市,玉渓市の順に小さくなった。この順序は,現状の南北それぞれの地域で一律とされる補助水準や先行研究が提示する機会費用の大きさにもとづいた補助水準とは異なる順序である。誤った補助の支払いは,補助が必要な地域にプロジェクト参加のインセンティヴを与えられないばかりか,補助の必要がない地域に補助を支給してしまう。本稿から,退耕還林を持続可能なプロジェクトとするために,よりきめ細かな地域区分にしたがう補助水準を実現していくことの必要性を見ることができる。

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