2018 年 31 巻 2 号 p. 80-88
2015年11月に政府の気候変動適応計画が閣議決定され,またパリ協定が合意されて以来,適応策を積極的に位置づけていく方向性が強まり,いくつかの地方自治体において気候変動適応計画が策定されつつある。気候変動影響は地域で大いに異なることから,ダウンスケーリングした気候モデルの結果を用いて,地域スケールでの気候変動予測やそれに基づく影響評価が行われつつある。ただし,このようなプロジェクトで得られる科学的知見を地方自治体の行政計画に位置づけようとすると,様々な課題があり,実効性のある政策立案に至っていないのが現状である。つまり,気候モデルや影響評価などの技術開発上のシーズと,行政ニーズとの間にある種のギャップが存在していると考えられる。したがって,トップダウン的に供給される科学的知見(専門知)とステークホルダーや一般市民がもつボトムアップ的な現場知との統合によるトランスディシプリナリなアプローチが重要となる。そのようなアプローチの1つとしてロールプレイシミュレーションが挙げられる。本稿では,米国ニューイングランド地方において気候変動適応策を題材としてロールプレイシミュレーションが実施された事例であるニューイングランド気候変動適応プロジェクトについて,文献調査とインタビュー調査により得られた示唆をまとめる。同プロジェクトはすでに終了しており,地元自治体で気候変動適応策の計画策定に至ったといった結果は特に聞かれていない。しかしながら,一部のステークホルダーの参加によるロールプレイシミュレーションで得られた結果が,ランダムサンプリングによる世論調査での一般的な回答と整合的な結果であったと証明できた点や,単に計画を作るのではなく,長期的なリスクを軽減し,持続可能な地域づくりに向けた課題解決のために具体的な対策づくりにフレーミングできた点は,協働的な意思決定のモデルの構築という観点からすれば効果的であったといえる。