環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
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31 巻, 2 号
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一般論文
  • 永淵 修, 中澤 暦, 井上 隆信, ELVINCE Rosana, 川上 智規, 尾坂 兼一, 金藤 浩司
    2018 年31 巻2 号 p. 43-58
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    極小規模に行われている人力小規模金採掘(ASGM)が人口1,000人規模の地域コミュニティに与える水銀による環境汚染とヒト健康リスク評価を行った。調査はインドネシア,スマトラ島のブンクル州にあるレボン郡のムアラアマン村で2011年3月6日~8日に行った。この地域は,100年ほど前にオランダがスマトラ島で14の金鉱山を開発した中の一地区である。現在,その廃坑を利用して細々と小規模金採掘と精錬が行われている。ここでは,河川水・飲料水等の水試料,堆積物・土壌試料,大気試料,米を調査対象とした。この地域での金精錬の特徴はgelondong(ボールミル)に金鉱石(尾鉱),水,金属水銀を混合し,渓流の水力を利用してgelondongを回転させ,金と水銀のアマルガムを生成させるものである。本研究によって,渓流水の水銀汚染(5.30~2,490 ng/L),堆積物や土壌の水銀汚染(0.34~25.6 mg/kg)や大気への水銀の揮散による一般大気環境の汚染(4.10~158 ng/m3)が明らかになった。また,この水銀に汚染された渓流水を田面水として利用している水田の米中の水銀濃度(0.044 mg/kg)が高いことも明らかにした。さらに,街中にあるゴールドショップ(2か所)で観測した瞬間値では,5×105 ng/m3から最大2×106 ng/m3の大気中濃度を観測した。この濃度は,低く見積もっても地球上のバックグラウンド濃度(1.1~1.7 ng/m3)の30万倍から120万倍であった。確率論的解析手法(モンテカルロ法)を用いてハザード比(HQs: Hazard Quotients)を求めリスク評価を行った。吸入暴露由来のヒトへの健康リスクは,精錬所およびゴールドショップ就労者ではリスクの懸念があると考えられたが地域コミュニティの住民ではリスク懸念がないと考えられた。一方,経口暴露由来では精錬所,ゴールドショップ就労者,地域コミュニティの住民でヒト健康リスクが懸念された。経口暴露由来のリスク削減策をシナリオ毎に検討すると,主蛋白源としての水銀汚染された魚食量について検討することで,リスク懸念を削減できる可能性がある。

  • 石川 奈緒, 田上 恵子, 内田 滋夫
    2018 年31 巻2 号 p. 59-67
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    Mnは様々な産業から環境へ排出されており,Mnが農耕地土壌へ移行した場合,農作物中Mn濃度の上昇が懸念される。同じ作物種でも作物中のMn濃度は様々な要因により変動するため,その変動要因を知ることは産業から環境へのMn負荷の環境影響評価に役立つ。本研究では,全国63地点から採取した水田土壌および玄米について,土壌特性および玄米中元素濃度がまとめられたデータセットを用い,重回帰分析を用いて玄米中Mn濃度の変動に対する未知の環境因子の抽出を試みた。土壌特性のみを用いた場合,置換性Ca, 土壌中Li, N, Zn, La濃度が,作物中元素濃度データも加えた場合は土壌中Rb濃度,玄米中P濃度およびCu濃度が抽出された。さらに,同様の手法を他の農作物について検討した結果,ダイコンと小麦は玄米と同様の項目で作物中Mn濃度の変動を説明できることが示された。

  • 梶井 公美子, 野瀬 大樹, 中島 光博
    2018 年31 巻2 号 p. 68-79
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    日本を含む先進国9カ国を対象に,各国の気候変動適応計画の総合性確保の手法や具体化の程度に着目し,その傾向を分析するとともに,適応計画の進化の類型化を試みた。その結果,総合的かつ理念的な戦略等を示した後に総合的かつ具体的な適応計画を策定する例,最初から総合的かつ具体的な計画を策定する例,総合的な枠組等を示した後,省庁(分野)別適応計画や当該国にとって最も重要な分野の適応計画のみを策定する例,総合的な枠組や戦略の提示までに留まり,以降は地方別等の計画・取組に委ねる例の4つに大別された。このような違いが生じる背景には,地域単位の強力かつ包括的な指針の存在(EU適応戦略パッケージ),地理的特性の違い,法律や大統領令の有無等があると考えられた。

研究資料
  • 馬場 健司, 吉川 真珠美, 大塚 隆志, 五十部 有紀, 田中 充
    2018 年31 巻2 号 p. 80-88
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    2015年11月に政府の気候変動適応計画が閣議決定され,またパリ協定が合意されて以来,適応策を積極的に位置づけていく方向性が強まり,いくつかの地方自治体において気候変動適応計画が策定されつつある。気候変動影響は地域で大いに異なることから,ダウンスケーリングした気候モデルの結果を用いて,地域スケールでの気候変動予測やそれに基づく影響評価が行われつつある。ただし,このようなプロジェクトで得られる科学的知見を地方自治体の行政計画に位置づけようとすると,様々な課題があり,実効性のある政策立案に至っていないのが現状である。つまり,気候モデルや影響評価などの技術開発上のシーズと,行政ニーズとの間にある種のギャップが存在していると考えられる。したがって,トップダウン的に供給される科学的知見(専門知)とステークホルダーや一般市民がもつボトムアップ的な現場知との統合によるトランスディシプリナリなアプローチが重要となる。そのようなアプローチの1つとしてロールプレイシミュレーションが挙げられる。本稿では,米国ニューイングランド地方において気候変動適応策を題材としてロールプレイシミュレーションが実施された事例であるニューイングランド気候変動適応プロジェクトについて,文献調査とインタビュー調査により得られた示唆をまとめる。同プロジェクトはすでに終了しており,地元自治体で気候変動適応策の計画策定に至ったといった結果は特に聞かれていない。しかしながら,一部のステークホルダーの参加によるロールプレイシミュレーションで得られた結果が,ランダムサンプリングによる世論調査での一般的な回答と整合的な結果であったと証明できた点や,単に計画を作るのではなく,長期的なリスクを軽減し,持続可能な地域づくりに向けた課題解決のために具体的な対策づくりにフレーミングできた点は,協働的な意思決定のモデルの構築という観点からすれば効果的であったといえる。

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