環境科学会誌
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特集論文
持続可能性アセスメントにおける情報技術の応用がもたらすコミュニケーション—都市の長期政策への適用と地熱開発の合意形成への応用の検討—
柴田 裕希 伊藤 夏生林 希一郎杉田 暁
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2019 年 32 巻 2 号 p. 75-82

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抄録

近年,従来の事業段階に加えて,より上位の政策や計画の段階においても環境面,社会面に配慮した意思決定が求められている。環境影響評価に関する研究では,このためのツールとして環境面に加えて,経済面,社会面を包括的に評価する持続可能性アセスメント(SA)が提唱されている。しかしながら,我が国の環境影響評価制度は環境面を中心に検討することとなっており,SAの実施例はなく,その手法について十分に検討されていない。そこで本稿では,SAの手法に関する研究の中から情報技術を応用したものに着目し,そのレヴューを踏まえて,SAにおける情報技術の応用がもたらすコミュニケーションの効果について考察することを目的とした。このため,都市の長期政策を対象として地理情報システム(GIS)を用いたSAの手法を取り上げる。この手法によって,代替案となる都市の複数の将来シナリオと,その影響評価の結果を視覚的に表現することが可能になる。また,抽象性の高い政策段階の意思決定であっても,具体的な議論を基に住民参加型で検討を進めることが可能になると考察された。さらに本稿では,個別事業段階で合意形成が課題とされる,地熱開発の上位段階における合意形成について,SAの手法がどのような役割を果たし得るか検討した。その結果,地域の地熱資源の利用や保全の方針を定める段階から,意思決定プロセスと一体的にSAを実施することによって,開発に対するステークホルダの懸念事項を事前に把握することが可能となり,それらへの対応としてのリスク対策や便益のオプションを開発計画の代替案と一体的に協議することが可能になると考えられた。また,情報技術を活用することにより,不可視性の高い地下のリスク情報を視覚的に表現することが可能となることで,ステークホルダの間で科学的なリスク認知の構築が促進され,SAがリスクコミュニケーショのプラットフォームの役割を果たすことが考察された。

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