環境科学会誌
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32 巻, 2 号
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特集論文
  • 山本 佳世子
    2019 年 32 巻 2 号 p. 26-35
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    近年のわが国では,多様な情報通信技術が次々に開発され,私たちの日常生活での利活用が急速に進んでいる。また多様な学問分野でも,情報通信技術の積極的な利活用が進むとともに,情報分野とその他の分野の複合領域,融合領域における研究,異分野との共同研究も新たに誕生し,各学問分野の領域を超えた取り組みが進みつつある。本論文は以上の社会的・学術的背景を踏まえ,環境科学分野において様々な情報通信技術がどのように利活用される可能性があるのか,情報通信技術の利活用によって環境科学分野がどのように進展する可能性があるのかについて論じることを目的とした。なお本論文では広義の「環境」を対象として,環境保全と防災の双方を1つの研究体系に位置付けて捉えた。

    本論文では,まず第5期科学技術基本計画(2016年閣議決定)における最も重要な概念の「超スマート社会」について紹介し,この基盤となる高度情報ネットワーク化社会について示すとともに,超スマート社会の情報通信技術としてのソーシャルメディアGISの役割について述べた。これらに基づいて,環境防災研究における情報通信技術を利活用した研究事例として,地震災害の防災・減災対策を想定し,災害情報システムとしてのソーシャルメディアGISの開発と社会実装化の研究成果について紹介した。さらに環境科学分野における情報通信技術の利活用の可能性と限界について,他の学問分野の例を引用しつつ述べた。

    最後には,情報通信技術を用いた本論文の筆者の研究について概要を簡潔に紹介した。そして本論文のまとめとして,(1)これまでに開発したシステムを環境科学分野にも適用し,社会実装化を目指すこと,(2)情報工学の多様な情報通信技術を環境科学に導入することにより,新しい研究の展開を目指し,環境科学分野の進展に貢献することの2点を今後の研究課題として示した。今後研究構想として,筆者らが開発した災害情報システムの住民参加型の環境活動や学校の環境教育における応用などを提案した。

  • 山下 亜紀郎
    2019 年 32 巻 2 号 p. 36-45
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,日本の一級水系109流域をすべて対象にして,いくつかのメッシュデータを流域単位で再集計した流域環境データベースを作成する。そして,それに基づいて流域の土地利用特性や水需給特性とそれらの時系列的変化について分析することで,日本の主要流域の地域性を比較考察する。その際,本稿が対象とするデータの年次は,水需要減少期に入った1990年代から2010年代の約20年間とする。

    各土地利用項目の面積率から109流域を類型区分すると,1990年代から2010年代にかけて13流域で類型が変化しており,その変化パターンには各流域それぞれの土地利用変化を反映した多様性が確認できる。

    109流域全体としての水需要は,1990年代から2010年代の約20年間で農水も上水も減少しているものの,個々の流域ごとにみると増加している流域もある。それらのうち農水需要が増加しているのは,いずれも東日本の流域であり,農地面積の増加ではなく単位面積当たりの農業用水量の増加が要因として寄与している。一方で,上水需要が増加しているのは,北海道,東北,中国,四国地方の主要な都市部を含む流域であり,各地方において,もともと需要の大きい都市部でさらに需要が増え,もともと小さいそれらの周辺地域でさらに減っている傾向が読み取れる。

    流域の水需給比に関しては,その値に流域間で大きな差異がある。水需給における地域格差がある中で,均一で安定した水供給を実現するには,水需給の逼迫した流域と水資源に余裕のある流域とが,広域的に連携し水を融通し合うのが一つの方策であるが一方で,流域内部における水利用の効率化や合理化もまた同時に重要である。

  • 秋山 千亜紀
    2019 年 32 巻 2 号 p. 46-52
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    我が国では水質汚濁の改善のため,水質汚濁防止法等の法整備とともに下水道や浄化槽等の整備・普及を進めてきた。これらの汚水処理施設の多くは人口増加・経済成長を前提に計画されたが,現在は人口減少・経済低成長へと転換したため,将来的な維持費の確保やインフラ設備の規模の見直し等が重要な課題となっている。そのため効率的な汚水処理施設の維持管理に向けて,将来の人口予測および広域共同化を視野に入れた事業計画の策定が取り組まれている。

    汚水処理施設の中でも流域下水道は複数の自治体をまたぐため,広域化をより推し進められる対象だと考え,本研究では日本全国の流域下水道を対象に将来の持続性を検討することを目的とした。持続性を示す指標として,将来人口を選択し,分析には下水処理区域内における人口の偏在性をピンポイントに表すマイクロ将来推計人口を用いた。流域下水道の管理は都道府県が主体であり,情報公開に関する方針は都道府県によって様々である。下水道処理区域について,空間分析が可能な地理空間情報は公開されていなかったため,まず全国の地方自治体のホームページより入手可能な地理情報を基に下水道普及率の対象となる処理区域のポリゴンデータを整備した。その処理区域とマイクロ将来推計人口を突合させて,流域下水道毎に将来の持続性を分析した。

    結果として,広域化による処理区域人口の拡大により将来にわたる処理区域人口の維持が期待されるとともに,処理人口の規模によっては全体計画人口の適正化を図る必要性が指摘された。本研究は全国を対象としたため,一定精度の地理情報の収集が課題であった。下水道施設等に関しては統計情報に関する情報公開が進められており,さらなる広域化・統合化を促進するには,本研究が示したように行政区域よりも詳細な単位での分析ができるよう地理空間情報を含めた環境情報の公開も必要ではないだろうか。

  • 秋山 祐樹
    2019 年 32 巻 2 号 p. 53-64
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    日本では今日に至るまで住宅の市場価値(家賃や住宅価格)が,物理的な住環境の良さと必ずしも一致しない状況が続いている。そこで筆者ほかは今日の家賃形成の実態を,様々な統計データやミクロな空間データ(マイクロジオデータ)を駆使して定量的に明らかにする研究を実施してきた。本稿では同研究の概要と,同研究により明らかとなった住環境と住宅の市場価値との間の意外な関係性について紹介する。

    本研究はまず日本全国の住宅地図に様々な統計や空間情報を統合することで,日本全国約6,000万棟の建物周辺の立地環境を把握できる建物マイクロジオデータを開発した。同データの各建物には全部で82種類の家賃形成要素(立地環境に関する説明変数)と,郵便番号単位で与えられた最低保障家賃に関する情報(目的変数)が格納されている。続いてどの家賃形成要素が家賃形成により大きく寄与しているか,ということを明らかにするためのモデルを開発した。まず郵便番号単位ごとに説明変数を集計化し,それらを用いたクラスタリング(k-means++法)により,最低保障家賃が明らかになっている全国29,043地区を6および34のクラスタに分類した。クラスタ数はGap統計量に基づいて決定した。続いてスパースモデリングを用いて,クラスタごとに目的変数である最低保障家賃に対して正および負に説明力がある説明変数を抽出することで,家賃形成に影響を与える家賃形成要素を明らかにした。

    その結果,日本の住宅の市場価値の決定要因は,住環境の良し悪しが必ずしも支配的ではないことがわかった。特に災害リスクに関する家賃形成要素については,洪水以外の災害リスクの影響を必ずしも受けていない地域が数多く見られたため,是正されるべき状況として警鐘を鳴らすべきであると言えよう。

  • 小野 聡, 木村 道徳
    2019 年 32 巻 2 号 p. 65-74
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,近年の計画における参加に関する研究を概観して参加の場の設計についての枠組みを得た上で,高島市朽木地区における参加設計の実践について報告する。計画への参加の設計に求められる要件は,提供される情報の科学性とそれに関する適切な応答に基づきつつ,地域主体の多元的な物の見方を前提にした事実理解の共有,およびそれに基づいた地域全体および個々人の行動計画の策定に重心が移行しつつある。本稿では既存研究を概観する上で「計画プロセス」と「情報処理プロセス」の二軸を設定し,そのもとで複数の既存研究で行われている,共同事実確認やゲーミングシミュレーションといった参加設計の特徴を明らかにした。その上で,筆者らの研究グループがアクションリサーチを行う,滋賀県高島市朽木地区における計画プロセスに関する実践例を整理した。アンケート,住民対話,および円卓会議といった3つの参加の回路についてそれぞれの特性について分析し,達成点と課題について考察をした。

  • 柴田 裕希, 伊藤 夏生, 林 希一郎, 杉田 暁
    2019 年 32 巻 2 号 p. 75-82
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,従来の事業段階に加えて,より上位の政策や計画の段階においても環境面,社会面に配慮した意思決定が求められている。環境影響評価に関する研究では,このためのツールとして環境面に加えて,経済面,社会面を包括的に評価する持続可能性アセスメント(SA)が提唱されている。しかしながら,我が国の環境影響評価制度は環境面を中心に検討することとなっており,SAの実施例はなく,その手法について十分に検討されていない。そこで本稿では,SAの手法に関する研究の中から情報技術を応用したものに着目し,そのレヴューを踏まえて,SAにおける情報技術の応用がもたらすコミュニケーションの効果について考察することを目的とした。このため,都市の長期政策を対象として地理情報システム(GIS)を用いたSAの手法を取り上げる。この手法によって,代替案となる都市の複数の将来シナリオと,その影響評価の結果を視覚的に表現することが可能になる。また,抽象性の高い政策段階の意思決定であっても,具体的な議論を基に住民参加型で検討を進めることが可能になると考察された。さらに本稿では,個別事業段階で合意形成が課題とされる,地熱開発の上位段階における合意形成について,SAの手法がどのような役割を果たし得るか検討した。その結果,地域の地熱資源の利用や保全の方針を定める段階から,意思決定プロセスと一体的にSAを実施することによって,開発に対するステークホルダの懸念事項を事前に把握することが可能となり,それらへの対応としてのリスク対策や便益のオプションを開発計画の代替案と一体的に協議することが可能になると考えられた。また,情報技術を活用することにより,不可視性の高い地下のリスク情報を視覚的に表現することが可能となることで,ステークホルダの間で科学的なリスク認知の構築が促進され,SAがリスクコミュニケーショのプラットフォームの役割を果たすことが考察された。

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