本研究では,高分解能LC/MSを用いて,ネオニコチノイド系殺虫剤イミダクロプリド(CASRN: 138261-41-3)の環境変化体であるイミダクロプリド-ジオール体(N-(1-((6-クロロピリジン-3-イル)メチル)-4,5-ジヒドロキシイミダゾリジン-2-イリデン)ニトラミド)が実環境試料中から検出されるか否かを検討した。さらに,その他の環境変化体を含めて,水生昆虫に対する急性毒性を評価した。
まず,イミダクロプリド水溶液に模擬太陽光を照射して光照射サンプルを調製した。また,イミダクロプリドが散布されている水田から,田面水サンプルを採取した。着目した6物質の環境変化体がこれらのサンプルから検出されるか否かを確認したところ,光照射サンプルからは4物質,田面水サンプルからは5物質が検出された。さらに,田面水サンプルからは,これまで実環境試料からの検出例が見当たらないイミダクロプリド-ジオール体が検出された。同物質は,シス–トランス異性体から成ると考えられた。
次に,イミダクロプリドと検出された6物質の環境変化体について,セスジユスリカの幼虫およびオオミジンコに対する急性遊泳阻害試験を行った。イミダクロプリドと環境変化体の遊泳阻害を48 h-EC50で比較すると,セスジユスリカの幼虫では160~>8,600倍,オオミジンコでは0.80~>8.0倍となり,イミダクロプリドから環境変化体に変化すると毒性強度が低くなることが明らかとなった。また,環境変化体のセスジユスリカの幼虫に対する48 h-EC50は3.3~>180 mg/Lの範囲であり,オオミジンコのそれは20~>200 mg/Lであった。このことから,環境変化体の遊泳阻害の種特異性は限定的であった。
さらに,イミダクロプリドとその環境変化体のオオミジンコに対する致死毒性を検討した結果,イミダクロプリドでは確認されなかった致死毒性が,環境変化体の一つである6-クロロニコチンアルデヒドから観察され,注意が必要であることが明らかとなった。