抄録
大気汚染問題に対し,各国政府は,大気質に関する基準を設定し,大気汚染物質の排出規制を行っている。本研究では,日本とアメリカの大気質に関する基準の決定過程,および規制の実施過程についての確率的モデルを開発し,基準設定・規制実施にともなう両国の大気汚染物質濃度および対策費用の推移についてシミュレーションを行った。また,その結果をもとに,短期・中期・長期の対策費用,健康影響減少,技術進歩,費用対効果を分析した。日本は,アメリカと比較して,基準が厳しく設定され,より多くの費用を汚染防止対策にあて,より大規模な研究開発投資を行うという歴史的事実を前提におくと,日本においては,いずれのケースにおいても,より高度の汚染防除技術進歩が誘発され,汚染濃度削減の度合いが大きくなり,減少される健康影響の程度も大きいという結果が得られた。費用対効果に関しては,規制導入前の大気汚染物質濃度,規制開始時に利用可能な汚染防除技術,低濃度における量一反応関係についての前提によって日米の優劣は異なることがわかった。例えば,有症率に下限値が存在する場合には,アメリカの費用効果の方が優位となるケースが多いが,低濃度における量一反応関係が直線型である場合では,日本の方が費用効果的なケースが多いという結果が得られた。また,有症者を1年に1人減少させるためにかかる費用の日米差は,短期から中期にかけては大きくなり,中期から長期にかけて小さくなっていく傾向が見られるケースが最も多いことも明らかになった。