環境科学会誌
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16 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • ―松枯れの原因解明へのひとつのアプローチ―
    遠藤 稔
    2003 年16 巻1 号 p. 1-10
    発行日: 2003/01/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     日本各地でマツの大量枯死,いわゆる「松枯れ」が顕在化して久しい。しかし,松くい虫対策を実施しても一向に終息していない。いまだに,そのメカニズムが解明されているとは言い難い。最近,松枯れと大気汚染(酸性雨・酸性霧,酸性降下物,粒子状物質等)との相関関係が指摘されてきている。そこで,静岡県沼津市及びその周辺を調査域として,松枯れが多く交通量の激しい道路沿いと,松枯れがさほど見られない交通量の少ない道路沿いのクロマツの葉をそれぞれ採取し,気孔の閉塞状況の観察とその閉塞物質を特定した。その結果,交通量の多い道路沿いの松葉の気孔は形態的にも異常をきたし,しかも気孔の前腔が粒子状物質で閉塞している場合が多かった。この粒子状物質にはジベンゾアントラセン,ベンゾピレン等が含まれていた。これらが原因となって,マツが衰弱し,殺虫効果のあるとされるマツの心材に含まれているスチルベン類(ピノシルビン)の分泌が減少するため,マツへのマツノザイセンチュウの侵入が容易になる機構を提案した。
  • ―確率的モデルによるシミュレーション分析―
    Naoko MATSUMOTO, Tsuneyuki MORITA
    2003 年16 巻1 号 p. 11-23
    発行日: 2003/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     大気汚染問題に対し,各国政府は,大気質に関する基準を設定し,大気汚染物質の排出規制を行っている。本研究では,日本とアメリカの大気質に関する基準の決定過程,および規制の実施過程についての確率的モデルを開発し,基準設定・規制実施にともなう両国の大気汚染物質濃度および対策費用の推移についてシミュレーションを行った。また,その結果をもとに,短期・中期・長期の対策費用,健康影響減少,技術進歩,費用対効果を分析した。日本は,アメリカと比較して,基準が厳しく設定され,より多くの費用を汚染防止対策にあて,より大規模な研究開発投資を行うという歴史的事実を前提におくと,日本においては,いずれのケースにおいても,より高度の汚染防除技術進歩が誘発され,汚染濃度削減の度合いが大きくなり,減少される健康影響の程度も大きいという結果が得られた。費用対効果に関しては,規制導入前の大気汚染物質濃度,規制開始時に利用可能な汚染防除技術,低濃度における量一反応関係についての前提によって日米の優劣は異なることがわかった。例えば,有症率に下限値が存在する場合には,アメリカの費用効果の方が優位となるケースが多いが,低濃度における量一反応関係が直線型である場合では,日本の方が費用効果的なケースが多いという結果が得られた。また,有症者を1年に1人減少させるためにかかる費用の日米差は,短期から中期にかけては大きくなり,中期から長期にかけて小さくなっていく傾向が見られるケースが最も多いことも明らかになった。
  • 室山 勝彦, 林 卓也, 大口 宗範, 林 順一
    2003 年16 巻1 号 p. 25-32
    発行日: 2003/01/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     豆腐製造工場における物質フローおよびエネルギーフローに関して累積CO2排出原単位を評価指標としてライフサイクル・インベントリー解析を行い,豆腐製造における累積CO2排出原単位を求めた。さらに,副産物としてのおからの処理として,焼却,資源化法として乾燥飼料化,炭化,コンポスト化,さらに,おからのメタン発酵によってバイオガスを得てさらに燃料電池にバイオガスを通じて発電し工程に還元する場合について,実際の処理工場のデータをもとに,それぞれの処理工程のCO2排出原単位を正確に求め,おからを再資源化処理するそれぞれの場合の累積CO2排出原単位を推定した。その結果,累積CO2排出源単位の増加量は,炭化>焼却>廃熱利用などによる乾燥>コンポスト化,の順に大きいことが分かった。おからには自燃性がなく焼却には重油などの補助燃料が必要で,乾燥と同程度の累積CO2排出源単位の増加となることが分かった。さらに,おから単独,あるいはおからおよび寄せ込み排水の混合メタン発酵処理は燃料電池による発電を適用すれば,工程電力の90%以上をまかなうことができて,累積CO2排出原単位の削減に大きく寄与できることが分かった。
  • 橋本 進一郎, 関根 嘉香, 安岡 高志
    2003 年16 巻1 号 p. 33-41
    発行日: 2003/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究では中国主要都市の1990年代(1991~1999年)における大気中二酸化硫黄濃度について,「中国環境年鑑」に記載されている観測データをもとに,その地域性と経年変化に着目して考察を行った。その結果,大気中二酸化硫黄濃度が明確な増加傾向を示す都市はなく,減少傾向を示す都市と濃度変化の少ない都市がおよそ半々存在し,全体的に改善傾向にあることがわかった。一方,大気中の二酸化硫黄濃度と石炭総消費量との間には有意な相関は見られなかったが,業種別の石炭消費量についてはいくつかの部門において有意な相関が見られた。全体の経年変化における改善傾向の要因は「民間消費」および「その他の業種」部門による石炭消費量の削減と「電力供給業」を含めた工業部門による脱硫装置の効果の向上によるものと考えられる。一方,地域分布における経年変化(都市における濃度傾向の違い)については,大型火力発電所の有無だけでなく,各都市における脱硫装置の効率の差が「減少型」と「その他」を分ける大きな要因であると考えられる。
  • 天野 耕二, 寺田 幸司
    2003 年16 巻1 号 p. 43-50
    発行日: 2003/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     一般戸建て住宅用太陽光発電設備の製造と運用におけるエネルギー消費量,CO、排出量およびコストのライフサイクル評価をペイバックタイムの視点から試みた上で,設備導入に関する住民意識の分析と,導入促進に向けた経済的施策の検討を行った。戸建て住宅在住者を対象としたアンケート調査により,太陽光発電設備導入に関する意識の中では,太陽光発電によって光熱費を低減させることができるという意識が強いことがわかった。コストペイバックタイムが20年以下(実質の設置者負担額が0円以下)になるように補助金額を設定することによって,67.6%の人の導入意欲を向上させることができることが期待できた。経済的施策を伴う情報提供により住民のコスト面における導入障壁意識を取り除くことが太陽光発電設備の普及促進には効果的であることがわかった。
  • ―室内の有害化学物質低減への観葉植物の寄与に関連して―
    湊 和也, 大林 麻子
    2003 年16 巻1 号 p. 51-56
    発行日: 2003/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     室内における観葉植物の配置がホルムアルデヒドの気中濃度の低減に及ぼす効果を調べる研究の一部として,ホルムアルデヒドの土壌中での挙動を調べた。ホルムアルデヒド希薄水溶液中に園芸用の土壌を共存させ,その濃度を経時的に測定した。その結果,ホルムアルデヒドの濃度の低下速度は35℃ 付近で最大となり,また,一定の誘導期間経過後に加速した。さらに中性域において最適pHを示した。加熱あるいは殺菌剤による滅菌処理はホルムアルデヒドの濃度低下を顕著に抑制した。以上の結果から,ホルムアルデヒドの濃度低下には,土壌中の微生物による分解が大きく寄与することが判明した。このことは土壌中でホルムアルデヒドが,単に水に溶解あるいは土壌に吸着されているのではなく,不可逆的に分解されることを意味する。したがって,気中のホルムアルデヒドが十分に土壌に吸収される条件が整えば,観葉植物の室内における配置がホルムアルデヒド濃度低減に及ぼす一定の効果は期待できる。
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