環境科学会誌
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西中国山地国定公園における宅地開発の事後アセスメント―土砂流亡と渓流水路の改変の影響―
山本 菜穂中根 周歩佐藤 高晴静間 清
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2004 年 17 巻 1 号 p. 25-36

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抄録

 西中国山地国定公園内で行われている「環境との共生」を謳い文句としたリゾート住宅地の開発済現地において,事業者の環境影響評価書と著者らが行った事後の環境影響調査結果を比較し,この開発がこの地域の貴重な自然環境を不必要に損なっていないかどうかを検討した。まず,降雨時に開発地域からの河川水濁度を測定したところ,排水基準200ppmを越える地点が多く,開発地から高濁度の濁水がその下流の湖沿岸に流入していることが判明した。ついで,湖沿岸で湖底堆積物の厚さを測定したところ,開発地から濁流が流れ込む岸では40~70cmを示したのに対し,非開発地域からの河川が流れ込む岸では1~20cmを示した。また,湖沿岸の湖底堆積物の柱状試料を採取し,γ 線スペクトロメトリを用いて堆積物1g中の210Pbによる放射能の深度分布を測定した。開発地下流側の沿岸では深度による差が見られずほぼ一定であったのに対し,非開発地下流側の沿岸では深度による差が顕著であった。これらは,開発地下流側の湖沿岸には開発地からの流入土砂が堆積していることを示唆している。これらの流入土砂が動植物に与えた影響を調べるために,開発地と非開発地の両下流の湖岸で夏期,秋期の植生調査と底生動物の個体数,種数調査を行った。植被率は夏期,秋期ともに開発地下流の方が低い値を示した。また,平均出現種数/m2は夏期,秋期ともに開発地下流の方が高い値を示したが,これは湖岸の陸化による湿地性植物の衰退に伴って草地性植物が多数侵入したことによる。底生動物に関しては,個体数,種数ともに開発地下流の方が低い値を示した。以上から,開発地下流の湖岸では開発地からの土砂の堆積によって植生が埋没し乾地化が進んだため,底生動物や湿生植物の生育に適した環境でなくなったと考えられる。これらの結果は,「土砂の流出は防止され,植生と底生動物に影響は与えない」という環境影響評価書における予測とは大きく異なっている。こうした事前評価と事後評価の違いを防ぐためには,事業実施中のモニタリングと,その結果に応じた柔軟な事後対応の重要性が指摘された。

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