抄録
幼若ホルモン様作用物質曝露によって小型甲殻類ミジンコ仔虫の性決定が左右されることを示した研究を受けて,本論文では,(1)曝露の時期をずらした実験における,幼若ホルモン様作用物質(フェノキシカルブ)によるミジンコ仔虫の性決定時期の推定,(2)フェノキシカルブによる雄仔虫誘導効果の曝露停止後の曝露効果の持続期間推定,(3)脊椎動物の内分泌攪乱化学物質として疑われている3物質(ビスフェノールA,ノニルフェノール,オクチルフェノール)と無脊椎動物の脱皮ホルモン(20ヒドロキシエクジソン)についての性決定への影響評価試験を行った。 これらの結果,ミジンコにおける性決定は,育房への産卵前の限られた期間(産卵前0-18h程度)に起きていることが示された。 また,曝露停止によって仔虫性比,産仔数ともに効果が速やかに消失し,回復したことから,幼若ホルモン様作用物質による仔虫性比の変化は,残留効果が少ない攪乱作用によるものであることが示唆された。 ビスフェノールA,ノニルフェノール,オクチルフェノールについてのオオミジンコ繁殖阻害試験では産仔数の低下は確認できたが,雄仔虫は誘導されなかった。このことから,雄仔虫誘導は単なるケミカルストレスによるものではなく,内分泌攪乱によるものであると考えられる。一方,脱皮ホルモンである20ヒドロキシエクジソンでは産仔数の低下はほとんど生じず,試験個体が全個体死亡する高濃度まで試験したが,すべての濃度において雄仔虫出現は確認されなかった。 本研究の結果から,オオミジンコの仔虫性比の変化を利用して幼若ホルモン様作用を持つ化学物質の影響評価が行えること,また短期曝露によって幼若ホルモン様物質の簡易スクリーニングを行うことも可能であることが示された。