環境科学会誌
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バンキング可能な排出権取引制度の市場価格形成
前田 章
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2005 年 18 巻 3 号 p. 207-216

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抄録
 本論文では排出権取引制度において,異時点間の権利移転(バンキングやボローイング)の可能性が市場価格形成に及ぼす影響について考察する。とりわけ市場価格形成に際しての不確実性の果たす役割について分析する。異時点間の移転が可能になった場合,現時点排出権スポット市場と将来時点スポット市場は先渡し取引を介して互いにリンクすることになる。現時点スポット取引と先渡し取引との間の無裁定条件,および,先渡し取引と将来スポット取引との間のリスクを考慮した均衡条件の二つから,全ての市場価格とバンキング(またはボローイング)量が決定されることとなる。そこから,将来の経済環境に関する不確実性は現在スポット価格を上昇させる要因にも下落させる要因にもなりえるが,非常に大きな不確実性は必ず上昇要因になることが理論的に導かれる。その他,本理論モデルを用いれば技術進歩や市場参加者タイプの違いなどの影響も考察でき,政策担当者や政策意思決定者にとって重要な政策的含意を提示することができる。
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