日本では公害対策基本法以降,硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの様々な化学物質を対象とした環境規制が制定・強化されてきた。環境規制について長期間で考えた場合,環境政策が新技術の開発や普及に与える影響は,環境保護の成否を分ける重要な決定要素となる可能性がある。本研究の目的は,環境規制がSOx・NOxの抑制に関する技術イノベーションにどのような影響を与えているかを1964年から2002年の特許データを用いることで検証することである。グランジャー因果性検定を用い,結果として,SOxはSOx抑制技術イノベーション及び知識ストックに対して,NOx規制及び自動車排ガス規制NOx抑制技術イノベーション及び知識ストックに対してそれぞれ有意に正の影響を与えていた可能性が示された。またSOx規制は0から2年,NOx規制と自動車排ガス規制は4,5年のラグで有意に影響したが,これは物質毎の処理技術イノベーションの難易度が表れたものだと考えられる。本研究では,逆の因果関係についても調べ,SOx・NOx抑制技術イノベーションがSOx規制,NOx規制のそれぞれ因果要因となりえたことが示された。一方,NOx抑制技術イノベーションが自動車排ガス規制強化の要因であることは示されなかった。