環境科学会誌
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21 巻, 1 号
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  • 八木 迪幸, 馬奈木 俊介
    2008 年 21 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 2008/01/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     日本では公害対策基本法以降,硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの様々な化学物質を対象とした環境規制が制定・強化されてきた。環境規制について長期間で考えた場合,環境政策が新技術の開発や普及に与える影響は,環境保護の成否を分ける重要な決定要素となる可能性がある。本研究の目的は,環境規制がSOx・NOxの抑制に関する技術イノベーションにどのような影響を与えているかを1964年から2002年の特許データを用いることで検証することである。グランジャー因果性検定を用い,結果として,SOxはSOx抑制技術イノベーション及び知識ストックに対して,NOx規制及び自動車排ガス規制NOx抑制技術イノベーション及び知識ストックに対してそれぞれ有意に正の影響を与えていた可能性が示された。またSOx規制は0から2年,NOx規制と自動車排ガス規制は4,5年のラグで有意に影響したが,これは物質毎の処理技術イノベーションの難易度が表れたものだと考えられる。本研究では,逆の因果関係についても調べ,SOx・NOx抑制技術イノベーションがSOx規制,NOx規制のそれぞれ因果要因となりえたことが示された。一方,NOx抑制技術イノベーションが自動車排ガス規制強化の要因であることは示されなかった。
  • 包 海, 近藤 明, 加賀 昭和, 井上 義雄, 多田 将晴
    2008 年 21 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2008/01/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     森林植生からの揮発性有機化合物(BVOC)の発生量がオゾン暴露に対する影響に関しては,まだ不明点が多い。グロースチャンバーを用い,日本の代表的な樹種である針葉樹のスギ(Cryptomeria japonica),ヒノキ(Chamaecypayis obtusa),アカマツ(Pinus densiflora)及び広葉樹のコナラ(Quercus serrata)の4種類の樹木を,2005年秋と2006年夏に,オゾン濃度200ppbと100ppbに曝露する実験を実施した。グロースチャンバー内気温は大阪の夏季の日変動気温に制御し,PARは午前7時から午後7時まで335μmolm-2s-1一定値にした。実験は樹種ごとに3日間連続で実施し,実験2日目に樹木にオゾンを曝露した。BVOCを午前7時から午後7時まで1時間ごとにサンプリングし,暴露前日,暴露日,暴露翌日の1日(測定時間12時間)ごとの総発生量を算出した。 針葉樹のスギ,ヒノキ,アカマツからはα-ピネン,β-ピネン,β-ミルセン,α-フェランドレン,α-テルピネン,リモネン,γ-テルピネン,テルピノレンの8種類のモノテルペン類とp-シメンを検出した。スギ,ヒノキ,アカマツにオゾンを暴露すると,実験2日目の暴露日のα-ピネン発生量は,実験1日目のそれの40~75%に減少したが,実験3日目には65~100%に回復した。スギ,ヒノキ,アカマツにオゾンを暴露すると,実験2日目の暴露日のβ-ピネン発生量は,実験1日目のそれの22~75%に減少したが,実験3日目には40~95%に回復した。広葉樹のコナラからはイソプレンが検出できた。コナラの200±5ppbオゾン暴露実験の場合,実験2日目の暴露日のイソプレン発生量は,実験1日目のそれの88~96%に減少したが,実験3日目にはほぼ実験1日目の発生量に回復した。100±5ppbのオゾン曝露実験の場合,オゾンを曝露しても発生量に影響はなかった。以上の結果より,針葉樹からのBVOC発生量はオゾン暴露に強く影響を受けるが,コナラからのイソプレン発生量は,200ppbのオゾン暴露の場合はわずかに減少したが,100ppbのオゾン曝露下での影響は見られなかった。
  • 島崎 洋一
    2008 年 21 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2008/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     循環型社会を形成するための評価手法として,地域単位におけるマテリアルフロー分析が提唱されている。マテリアルフロー分析は,対象システムの物質の流れを定量的に示し,環境負荷との関係を明らかにする方法である。本研究では,物流センサス(全国貨物純流動調査)を用いて,山梨県の1990年,1995年,2000年のマテリアルフローを推計し,物質収支の時系列変化を定量的に把握することを目的とする。従来,都道府県レベルのマテリアルフロー分析は,地域間の比較分析から地域の特徴把握を重視する傾向にあり,時系列の観点からはあまり分析がなされていない。そこで,時系列データの長所を活かし,得られた推計結果と業種別廃棄物排出量,最終エネルギー消費量などの統計データを参照し,マクロな観点から,物質循環の指標や廃棄物排出量の要因分析について,新たに提案する。 マテリアルフローを推計した結果,総発量と総着量の差から算出された山梨県の物質収支は,1990年から2000年までの10年間においてプラスからマイナスに転じた。これは,県内へ入荷される金属機械工業品の増加と同時に県外へ出荷される鉱産品の量が大きく減少したことに起因する。また,山梨県は過去10年間において総着量に対する廃棄物排出量の削減および付加価値の高い製品を出荷する生産構造へ進展しているが,エネルギー消費量や二酸化炭素排出量の側面では悪化していることがわかった。山梨県の廃棄物排出量の変動について,1995年の廃棄物排出量が増加した理由は,第2次産業の経済活動の停滞に対し,第3次産業の経済活動が活発になったことが考えられる。一方,2000年の廃棄物排出量が減少した理由は,第2次産業におけるリデュースの効果と考えられ,鉱業の生産活動の変化が最も関係していることがわかった。以上の分析から,地域単位のマテリアルフローを時系列の観点から分析する有用性を示すことができた。
  • 木下 嗣基, 山形 与志樹, 岩男 弘毅
    2008 年 21 巻 1 号 p. 37-52
    発行日: 2008/01/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     これまでの土地利用変化は,主に森林から農地への転換が行われてきた。しかし,温暖化対策として植林が認められ,炭素クレジットがつくと森林の生産的価値が上昇し,林地から農地への転換が減少することや,未利用地への植林が進むことが予想される。林地から農地への転換が減少すると,相対的に食糧生産を圧迫する可能性が指摘されているが,詳細な検討は行われていない。そこで本研究では,炭素クレジットの導入に伴う土地利用変化を予測する手法の開発と,炭素クレジットの導入の土地利用への影響を数値モデルを用いて行う。特に,全球規模で考えると人間活動に伴う土地利用割合が最も大きい,森林から農地への転換を考える。加えて,炭素クレジットによる未利用地への植林も考慮する。まず,将来シナリオの違いによる土地利用変化の違いから,土地利用変化の要因を探る。次に,炭素クレジットの導入により,土地利用がどのように変化するかを検討する。最後に炭素価格の将来的な予測が森林面積の増大に与える影響を検討し,今後の発展の方向性を考察する。本研究では,既往の土地利用予測モデルと異なり,メッシュで得られた農林業の生産性や,全球の土地被覆マップを利用する,メッシュベースの土地利用予測モデルである。将来しなりの違いによる土地利用変化の違いは,特にアフリカが敏感であることが示された。また,炭素クレジットの導入により,農地への転換が減少することや,炭素クレジットが今後上昇していくと,よりいっそう農地への転換が減少することが示された。
  • 関 雅範, 藤島 沙織, 権藤 由紀, 井上 義之, 野坂 俊樹, 末村 耕二, 高月 峰夫
    2008 年 21 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2008/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     ナノ材料はユニークな物理的・化学的特性と生物学的相互作用を有しており,その環境ハザードデータに関する情報もほとんど存在しない。本研究においては,フラーレンC60の水生生物への影響を評価するため,水生生物を用いた急性生態毒性試験を実施した。ナノサイズ粒子を含むフラーレンC60の水懸濁液(500mg/L)は,フラーレンC60を氷砂糖及びPEG(40)硬化ヒマシ油を用いて摩砕することにより調製した。このフラーレンC60の水懸濁液を用いて,メダカによる96時間急性毒性試験オオミジンコを用いた48時間急性遊泳阻害試験72時間藻類生長阻害試験を実施した。その結果,メダカの96-hLC50(半数致死濃度),オオミジンコの48-hEC50(半数影響濃度),藻類の生長速度(0-72時間)に基づく72-hEC50はそれぞれ,>2.15,>2.25,>2.27mg/Lであった。しかし,藻類試験においては,0.0551mg/L以上の濃度区で統計学的に有意な生長速度(0-72時間)の抑制がみられ,生長速度(0-72時間)に基づく72-hNOEC(最大無作用濃度)は0.0178mg/Lと評価された。
  • 棟居 洋介, 増井 利彦
    2008 年 21 巻 1 号 p. 63-88
    発行日: 2008/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     気候変動にともなう長期的な食料不安(Food Insecurity)の評価のためには,将来の社会・経済の発展パターンの違いを考慮に入れた空間的,時間的により詳細な需要サイドからの食料必要量の推計が不可欠である。本研究では,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「排出シナリオに関する特別報告書(SRES)」の4つの社会・経済シナリオにもとついて,世界184力国・地域を対象に,世界食糧農業機関(FAO)の食料需給表96品目について一次生産レベルの食料必要量を1990年から2100年まで推計した。先行研究(棟居・増井,2006)では各国の栄養不足人口の割合を2.5%以下に担保するために必要な国レベルの食事エネルギー必要量を推計したが,本研究では,その結果と食料消費パターンの変化から各国の最終消費レベルにおける食料必要量を品目別に算定し,さらに食料のライフサイクルにおける家畜飼料,種子,食品加工原料などの用途,および廃棄物の発生を考慮に入れて品目別の一次生産レベルの食料必要量を算出した。さらに,各国の一人当たり所得のシナリオと一次生産レベルの食料必要量の推計結果をもとに,需要サイドから将来食料不安のリスクが高まる可能性があると考えられる国,地域の抽出を行った。 推計の結果,例えば穀物については,予測の基準年(1990年)における世界全体の国内消費仕向け量は17億4,000万トンであったが,世界全体の必要量は,高成長社会シナリオ(A1)および持続発展型社会シナリオ(B1)では,今世紀半ばにそれぞれ34億600万トン,34億2,600万トンでピークに達し,2100年にかけて26億5,000万トン程度まで逓減することがわかった。また,多元化社会シナリオ(A2)および地域共存型社会シナリオ(B2)では,今世紀末まで増加を続け,2050年にはそれぞれ39億800万トン,37億4,000万トン,さらに2100年には60億1,000万トン,40億3,000万トンにまで達することが予測された。また,予測期間を通して一人当たり所得の低い国ほど基準年からの食料必要量の増加率が大きい傾向が確認され,それらの食料不安のリスクが高まる可能性がある国の多くはサハラ以南アフリカ地域に集中することが示された。。
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