環境科学会誌
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環境サービスに対する支払いとしての森林環境税に関する研究
Lyudmyla BESPYATKO井村 秀文
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2008 年 21 巻 2 号 p. 115-132

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抄録

 天然資源がもたらす環境サービスの価値が認識されるにつれ,サービスの源泉である森林等の生態系保全の費用を受益者が負担すべきとの「環境サービスに対する支払い(PES)」の考え方が登場した。2000年代に入って日本の多くの県で導入された森林環境税は,地方独自の環境税として創設されたものであり,自治体によって名称,目的,対象,根拠には少しずつ違いが見られるものの,PESの考え方に基づく環境保全の仕組みのひとつとして理解することができる。森林環境税制度の設計にあたっては,人工林,とりわけ私有林の管理にこうした支払いを求めることは適切か,受益の及ぶ地理的境界を特定の行政区域内に限定することは妥当か,税導入によって目に見える環境保全効果が得られるかどうかなどが問われている。こうした疑問に答えるためには,制度の総合的な評価が必要である。なかでも,多くの利害関係者の負担と受益をめぐっての論点が注目される。そこで,本論文では,森林環境税に着目し,制度設計・導入に対して県民から提出された意見を参考にしつつ,PESとしてのその特徴を分析した。このため,まず,23県の森林環境税について,PESの基本要素である費用負担,補償及び事業の内容を比較した。次に,森林環境税の制度化にあたってどのような議論が展開され,制度設計に反映されたかについて,各県で行われたタウンミーティングなどで得られた住民意見を体系的に整理し考察した。最後に,典型的なPESモデルとして具備すべき要件に照らして,PESとしての森林環境税の特徴を考察し,環境サービスの維持・強化を目的とすること,受益者負担の制度であることについては森林環境税はPESとしての要件を満たしているが,環境サービスの供給者に対する直接的補償が行われていない点では,途上国で一般的なPESのモデルとは異なることを指摘した。

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