環境科学会誌
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住民観察にもとつく快適環境指標の開発
―川崎市の環境観察指標―
原科 幸彦田中 充内藤 正明
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1990 年 3 巻 2 号 p. 85-98

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抄録

 環境の快適さの評価は住民の主観によるところが大きく,環境基準というような一律の尺度で行うことはできない。また,快適さの状態も従来の公害項目のように機器計測により把握することは困難である。そこで本研究では,これまでの環境指標の考え方を一歩進め,環境の快適性を人々の目や耳などの五感でとらえ「計量化」することを考えた。すなわち,住民自らが環境を観察してその結果にもとづき評価できる環境観察指標の開発を試みた。 このため,川崎市において小学校5年生の児童とその保護者を対象に環境観察調査を実施し,市内全小学校111校から約3800票が得られた。この調査では,児童に対しては自然観察を,保護者に対しては都市環境の快適面の5つの側面についての観察と評価を行ってもらった。この調査結果の分析から以下の諸点が明らかとなった。 自然環境の観察結果からは,セミ,カブトムシ,ヘビなど特定の生きものの発見率と快適環境評価との間に強い関連のあることがわかった。また環境の快適さの観察と評価からは,機器による計測にはなじまない「街の落ち着きやたたずまい」と「緑のゆたかさ」の2つが住民観察による有力な指標となりうることが示された。これら2つは快適性の総合評価に,特に強く寄与していることも明らかとなった。そして,従来から機器計測が行われてきた大気汚染と騒音も,「空気のきれいさ」と「静かさ」という観察によりかなり適切に把握できることが明らかとなった。さらに,生活環境を安全,健康,利便,快適,地域個性,人間関係の6項目で総合的に評価した場合,快適面は最も高い寄与を示すことが明らかになり,都市環境評価における快適性の重要性が確認された。

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