環境科学会誌
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瀬戸内海,ひうち灘及び伊予灘における溶存有機態窒素と溶存有機態リンの時間変動
熊本 雄一郎坪田 博行藤原 祺多夫
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1994 年 7 巻 1 号 p. 1-12

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抄録

 晩春の伊予灘,ひうち灘において海水中の溶存窒素,及び溶存リンの時間変動を観測した。伊予灘では,水温と塩分の分布から成層が確認され,溶存無機態窒素,溶存無機態リン(DIN,DIP)の濃度は,表層で小さく底層で高い鉛直分布を示していた。溶存有機態窒素・溶存有機態リン(DON,DOP)の濃度は,DIN,DIPの濃度より高かったが,その時間変動は小さかった。ひうち灘においては,成層は見られず,DIN,DIPは表層から底層までほぼ一定で,伊予灘と同にDON,DOPの濃度より低かった。一方,ひうち灘のDON,DOPの濃度は,伊予灘での測定結果とは対照的に,時間経過とともに大きく変動した。26時間の観測中に,高濃度のDON,DOPが二回観測され,その最高濃度は最低濃度よりおよそ一桁高かった。このようなDON,DOP濃度の時間変動が両海域において異なる要因として,潮汐との関係を考察した。すなわち,比較的水深の浅いひうち灘(水深22m)では,潮汐流に伴って巻き上げられた海底堆積物(再懸濁物)が,DON,DOP濃度に反映され,一方,比較的水深の深い,成層化している伊予灘(水深49m)では,そのような再懸濁物の影響がなかったと考察した。また,ひうち灘のDON/DOP比は外洋で観測された値に比べて小さく,過剰なリンがひうち灘の富栄養化に大きな影響を与えていることが推察された。これらの観測結果は,晩春の瀬戸内海において,DON,DOPはDIN,DIPを卓越して存在していること,水深等の地形的な要因がDON,DOP濃度の日変動に反映されることを示しており,富栄養化した瀬戸内海における窒素,リンの見積りには,DONとDOPの時間的に精密な測定が必要不可欠であることを明らかにした。

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