環境科学会誌
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屋久島溪流河川の晴天時・洪水時水質への酸性雨の影響
海老瀬 潜一
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1996 年 9 巻 3 号 p. 377-391

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抄録

 東シナ海と太平洋の境に浮かぶ屋久島には,全国平均より少し低い4.65のpHの酸性雨が4,300mmという年間降水量で負荷されるため,その土壌層の薄さゆえに影響の大きさの評価が重要である。それも水文学的に降水の流出経路から見て,基底流出と洪水時流出の両方からの検討が必要である。屋久島の主要な溪流河川について夏季と冬季の晴天時水質調査と洪水時水質調査を併せて実施した。晴天時水質調査から多くの測定値が,アルカリ度(<0.1meq・1-1),pH(5.5<pH<6.5)および電気伝導度(<40μS・cm-1)といずれも低く,流域としては陸水の酸性化を中和する緩衝能が小さく,これら3つの水質項目間に高い1次比例の関係の存在が明らかとなった。3月上旬の129.5mmの豪雨による宮之浦川の洪水時流出の水質変化調査を実施した。水位ピーク時付近にpH(5.65)とアルカリ度(0.0194meq・1-1)と大きな低下が明瞭に認められた。降雨後のpHやアルカリ度のゆっくりとした回復状況から推定して,浅い土壌層を経た流出成分の評価からも,土壌層の酸性化を中和する緩衝能の小ささが指摘できる。このように,屋久島の陸水酸性化の正確な定量評価には,水文学的に見て酸性雨の洪水時流出の短期的影響と晴天の継続する基底流出の長期的影響に分けて,継続した観測が必要と考えられる。

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