抄録
充足理論は,動的意味論に,「前提は先行文脈において成立していなければならない命題である」という制約を組み込んだ形式的枠組みであり,現在最も説明力が高い前提理論の1つである(Heim, 1983; Chierchia & McConnell-Ginet, 2000; Beaver, 2001; Kadmon, 2001)。本論文では,反事実条件文の後件においてトリガーされる前提を扱うことができないケースがあること,そして,この問題点が,充足理論における「前提は局所的文脈において充足されねばならない」という根本的仮定に起因することが主張される。