日本顎口腔機能学会雑誌
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原著論文
咀嚼運動制御における自由度縮小の間接的証拠
武田 勝之服部 佳功村上 任尚岩松 正明渡邉 誠
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2010 年 16 巻 2 号 p. 102-111

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抄録
【目的】咀嚼に関連する顎筋全部の筋電図を同時記録することは難しく,咀嚼制御における自由度縮小については,筋シナジーの詳細を含めて,不明の点が多い.本研究では,一部顎筋の筋電図に基づく咀嚼経路の推定可能性を検討し,咀嚼運動制御における自由度縮小の間接的証拠を得ようと試みた.推定に用いた以外の顎筋の活動が推定に用いた顎筋と常に連動して変化する場合にのみこの推定は可能であり,推定可能性は筋シナジーを含めた制御上の自由度縮小の間接的証明となりうると考えられる.【方法】4名の被験者にて片側ガム咀嚼中の下顎切歯点運動経路と両側の咬筋,側頭筋前部ならびに顎下部開口筋群の筋活動を同時記録した.各人200周期分の記録について,開口相,閉口相,咬合相の各相時間を10等分した計31時点を設定し,各時点の切歯点座標ならびに整流筋電波形の振幅値により咀嚼経路と筋活動パタンを記述した.ついでそれらを個々に主成分分析に供し,90%以上の変動の記述に要する主成分を抽出した.さらに筋活動パタンの主成分を入力して咀嚼経路の主成分を出力するニューラル・ネットワーク(ANN)を作成し,100周期分のデータを用いて逆誤差伝播法による学習を行わせ,その成果を残る100周期分のデータで検証した.【結果】ANNの学習の結果,咀嚼経路は筋活動パタンから良好な精度で推定され,全31点における平均推定誤差は,学習用データでは0.7mm,検証用データでは0.8mmであった.最大誤差はそれぞれ1.5および1.8mmで,開口相後期に認めた.【結論】上述の知見は咀嚼における制御上の自由度縮小の間接的証拠を提供すると考えられた.
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© 2010 日本顎口腔機能学会
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