抄録
本研究は,嚥下障害のある患者と健常者の舌骨運動時間と距離,舌骨位,および食塊移送のタイミングを比較することにより,嚥下障害における病態の一つと考えられる舌骨位の下垂が嚥下機能にどのように影響しているかを検証することを目的とした.
対象は,嚥下障害を主訴として来院され嚥下造影検査を行った65名の患者(以下患者群),対照として健常被験者10名(以下健常群)とした.得られたデータから,舌尖の運動開始を基準に舌骨運動・食塊移送の時間経過を計測し,また,第四頸椎前下縁を基準として舌骨位を計測し,患者群と健常群で比較を行った.
患者群では食塊移送時間が口腔,咽頭ともに延長しており,更に食塊の咽頭流入は嚥下反射惹起を示す急速な舌骨挙上と比べ有意に先行していた.第四頸椎を基準とした場合,患者群と健常群に明らかな舌骨位の違いは認めなかった.疾患別の検索を行うと,嚥下反射以降は各疾患とも類似した舌骨の動きが認められたが,嚥下反射前は複雑な軌跡を示した.いくつかの疾患では,嚥下反射惹起前の舌骨の移動距離と移動時間に正の相関関係が認められたため,舌骨位が嚥下反射惹起遅延に影響を与えている可能性が考えられた.