抄録
咀嚼時に食物粉砕時の場となる主機能部位は,これまで上下第一大臼歯の機能咬頭間に存在すると考えられてきたが,上下大臼歯には様々な面でその性質に違いがある.本研究では,主機能部位の位置が上下歯列の咬合状態に影響を受けるものと仮定し,上下歯列とその咬合状態が主機能部位の位置決定に与える影響について研究を行った.
20名の健常有歯顎をもつ被験者において左右計40側を被験側とし,加藤の方法に基づいてストッピングを用いて主機能部位の位置を特定し,咬合接触診査材を用いて上下歯列の咬合状態を記録し,上下歯列それぞれに第一大臼歯中心窩を基準点とする座標系を設定して主機能部位の位置を詳細に解析した.
その結果,主機能部位は上顎歯列内では上顎第一大臼歯口蓋側咬頭に集中する一方,下顎歯列内では下顎第一・第二大臼歯付近に散在することが示された.また,咬頭嵌合位で上顎第一大臼歯が下顎第一・第二大臼歯と咬合接触をもつものの主機能部位は,上顎第一大臼歯が下顎第一大臼歯とのみ咬合接触するものと比較して,下顎座標系では有意に遠心に位置する一方,上顎座標系では位置に有意な差が見られないことが示された.本研究より,主機能部位は下顎大臼歯よりも上顎第一大臼歯口蓋側咬頭に選択的に集中すること,また主機能部位の解析を行う際には上下歯列の咬合関係を併せて評価することの重要性が示された.