抄録
高齢期に頻発する舌粘膜の萎縮や感染は,舌乳頭の変性を介し,味覚障害の局所的成因となることが知られている.しかし,舌乳頭の変性が口腔内の機械受容性感覚に及ぼす影響はいまだ明らかになっていない.過去の研究では糸状乳頭の基部に機械受容器が分布し,体性感覚に関して重要な役割を果たしている可能性が示唆されている.そこで我々は,糸状乳頭をはじめとする舌乳頭が口腔内のテクスチャー感覚に関与するとの仮説を立てた.本研究では舌乳頭の形態的特徴が舌-口蓋間のテクスチャー感覚に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.健常成人10名を被験者とし,各々の舌-口蓋間のテクスチャー感覚を,平均粒子径50μmの微結晶セルロース0~6.4 wt%水懸濁液のざらつき感覚閾値にて評価した.ざらつきを感じた試験液濃度によって全被験者を高感度群6人,低感度群4人に群分けした.舌乳頭の定量的,形態的な評価指標には,舌背前方1/2から採得したシリコーン印象体のマイクロX線CT像に基づき,その表面形状の画像解析によりJISの定める表面粗さを測定した.全被験者はざらつき感覚閾値が試験液濃度0.4~3.2 wt%の範囲に分布した.ざらつき感覚の高感度群と低感度群を比較したところ,二乗平均平方根粗さRq,算術平均粗さRaは高感度群において有意に大きかった.一方最大谷深さRvは低感度群において有意に大きかった.これにより,表面粗さとして評価される舌乳頭の形態的特徴が口腔内のテクスチャー感覚に重要な役割をもつ可能性が示唆された.