2024 年 30 巻 2 号 p. 160-162
Ⅰ.目的
坂東らは,上顎を基準とした下顎の運動を下顎運動と呼び,その同じ運動を,下顎を基準として相対的に上顎が運動しているとみなした運動を相補下顎運動と呼ぶことを提案している1).相補下顎運動は,「歯科補綴学専門用語集 第6版」に収載されているが,一般的に浸透しているとはいえない.しかし,実際の補綴臨床術式のなかには相補下顎運動を利用していることが少なくない.具体的には,上顎に描記針,下顎に描記板を設置したゴシックアーチ,コンダイラー型咬合器および上顎歯の機能運動路を記録するFGPテクニックなどは,相補下顎運動を記録,再現する技術である.咬合器を使った間接法からCAD/CAMで補綴装置をつくることが一般的となる時代に変わりつつある今,新たな補綴装置の設計,製作法の確立が必要となっている.仮想空間上で補綴装置の設計に顎運動データを活用するためには,下顎運動だけでなく相補下顎運動を理解する必要がある.一方,顎運動の解析・研究においては,下顎運動で議論されることが多く,切歯点における下顎限界運動野を表現したPosselt Figureもその一例である.切歯点より後方になるに従いその運動野は下顎頭付近で収斂した全運動軸(KA)2)となる.一方で,相補下顎運動では,下顎運動野と同様に切歯点より後方になるに従い収斂した相補全運動軸(cKA)となる.本研究では,相補下顎運動の補綴臨床における意義を認識するために,全運動軸と相補全運動軸の空間的特徴について検討することを目的とする.