咀嚼機能は, 様々な性状の異なる食品を咀嚼することにより, 学習過程を経て, 成人型へ発達することが示唆されている.しかしながら, われわれ現代人が口にする食物の多くは, 短時間で多くの咀嚼回数を必要とせずに体に必要な栄養分を摂取することが可能となっている, 栄養の習慣におけるそのような変化による影響は十分には理解されていない.本研究では, 3次元顎運動計測システムと筋電計を用いて, 離乳後に固形飼料と液状飼料でそれぞれ飼育したマウスの咀嚼機能の変化を解析し, 軟食化が咀嚼機能の発達を妨げるという仮説を検証した.その結果, 1) 液状飼料で飼育したマウスにおいて, 固形飼料で飼育したマウスと比較して, 咀嚼する食物の性状を識別する能力が劣っていた.2) 液状飼料で飼育したマウスでは, 咀嚼経路と咀嚼リズムがきわめて不安定であった.3) 軟食を日常摂取すると, 吸啜から咀嚼への転換は行われるものの, 咀嚼のセントラル・パターン・ジェネレータ (CPG) あるいは, 末梢からのフイードバック機構の発達が阻害される可能性が示唆された.