日本顎口腔機能学会雑誌
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咬合終末期における顎運動経路の形成に対する力学的考察
久野 昌隆相馬 邦道
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1997 年 3 巻 2 号 p. 115-119

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抄録
本研究の目的は, ヒトの咬合終末期における咀嚼運動経路の形成を力学的に考察することにある.これに対して, 我々は, 咀嚼される食塊に発生する咬合エネルギーを指標として咬合状態を形態的に評価する方法を開発した.本報告においては, 本法を咀嚼機能の運動学的側面に対する検討に適用した.すなわち, 咀嚼運動経路上で, 特に, 咬合終末期に, 作業側から咬合終末位に向かって強い側方運動要素 (Gysiの第IV相) が現れることに対して, その力学的根拠を考察した.実験方法は次の通りである.すなわち, まず, 歯列模型より, 下顎第一大臼歯とそれに対咬する上顎第一大臼歯および第2小臼歯を分離し, それらが緊密に咬合するように再排列した.つぎに, 通法により, これらの表面形状と位置関係を測定し, それを基に, 咬合終末期における12の上下顎第一大臼歯の位置関係を, 頬舌および垂直的に想定した.それぞれの位置関係ごとに, CADにより, 上下顎歯モデルおよび上下顎歯間に食塊モデルを作製した.これらに対して, 有限要素法を適用し, 食塊モデルの各節点にかかる, ミーゼス応力 (咬合エネルギーの一部として発生する剪断ひずみエネルギーの平方根) を算出した.この際, 荷重条件としては, 咬合終末期における閉口筋の作用方向を, 咬合平面に対して水平および垂直方向に分解し, 下顎第一大臼歯の最下部に対して, それぞれの方向に0.01mmの強制変位を与えた.解析結果より, 垂直荷重時に対する水平荷重時のミーゼス応力の大きさの比を求めた (=P) .
その結果, P値は垂直的に閉口が進むにつれて大きくなった.また, 同値の変化率は閉口が咬合終末位に向かって水平的に進むにつれて大きくなった.これにより, 食塊の破壊の効率を高めるとの目的に対して, 咬合終末期において閉口筋の作用方向はその水平成分を増加させることが示唆された.これに伴い, 咀嚼運動経路は, 作業側頬側から咬合終末位方向へと水平成分を増加させて形成されているものと考えられた.このことより, ヒト前頭面咀嚼運動経路における第IV相の出現の力学的根拠の一端が示されたものと考えられた.
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