日本顎口腔機能学会雑誌
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31P-MRS (magnetic resonance spectroscopy) を用いた顎関節症患者の咬筋エネルギー代謝分析
山口 泰彦佐藤 華織小松 孝雪木村 朋義内山 洋一箕輪 和行
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1997 年 4 巻 1 号 p. 9-15

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抄録
この研究の目的は31P-Magnetic Resonance Spectroscopy (MRS) を用いて顎関節症患者の咬筋のエネルギー代謝を分析し, 安静時でも咬筋筋組織内のエネルギー源が減少した状態になっているか否かを明らかにすることである.
咬筋の疼痛や拘縮を主症状とする顎関節症患者7名, およびコントロールとした顎口腔系に異常の認められない正常有歯顎者7名の咬筋に対し31P-MRS検査を行ない, ATPの再合成のためのエネルギーの供給源として働くクレアチンリン酸 (PCr) とβ-ATPの比率 (PCr/β-ATP) , および無機リン (Pi) とβ-ATPの比率 (Pi/β-ATP) を分析した.また, 筋電図を用いて安静時の異常筋活動の有無を分析した.その結果, 以下の結論を得た.
1. 安静時の正常者群のPCr/β-ATPの平均が3.6±0.3であったのに対し, 顎関節症患者群では1.8±0.6とPCrの比率が有意に低下しており (P<0.01) , 顎関節症患者の咬筋の易疲労性には筋組織内のエネルギー源の減少も関与する可能性が示された.
2. 正常者では咬みしめなどの実験的疲労負荷時にPi/β-ATPは増加するのに対し, 顎関節症患者群の安静時のPi/β-ATPは正常者の安静時と差がなかった.そのため, 今回の患者のエネルギー状態は咬みしめ時のような急激にエネルギーを消費している状態やその直後の状態ではないものと思われた.
3. 顎関節症患者の安静時筋電図において異常な筋放電は認められなかった.このことからも, 今回の患者の安静時のPCrの低下はMRS測定時に筋が異常収縮したことによる変化ではないものと考えられた.
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