日本顎口腔機能学会雑誌
Online ISSN : 1883-986X
Print ISSN : 1340-9085
ISSN-L : 1340-9085
高齢全部床義歯装着者のガムチューイング時における咀嚼筋筋活動様相の正規化筋電図包絡線による若年者との比較
田中 誠也柏木 宏介田中 昌博糸田 昌隆岡崎 全宏川添 堯彬
著者情報
ジャーナル フリー

1999 年 5 巻 2 号 p. 155-164

詳細
抄録

わが国は, 世界中でいままで経験をしたことのないスピードで高齢化しつつあり, 高齢者における咀嚼機能の保全は, QOLの観点からも非常に重要な意味を持つことが報告されてきている.本研究では, 咀嚼機能把握にあたり, 正規化筋電図包絡線が, 高齢者の咀嚼時筋活動を若年者との比較検討からとらえる上で, 有用であるかどうか検討することを目的とし, 口腔内状況も異なる両者を選択し, 正規化筋電図包絡線を応用した.被験者として高齢全部床義歯装着者4名 (高齢全部床義歯群) , 健常有歯顎若年者8名 (若年有歯群) を選んだ.被験運動は, 習慣性咀嚼側における90秒間の片側ガムチューイングとした.両側咬筋, 側頭筋前部の筋活動ならびに, 切歯点の運動を同時記録した.MKGの波形から安定した10ストロークを選択し, 選択されたストロークの筋電位原波形をRMS値に変換し, さらに移動平均幅前後10ポイントで加重移動平均法にて平滑化し包絡線化処理を行った.これをMKGの垂直成分およびその微分波形から各ストロークを閉口相, 咬合相, 開口相の3相に分割し, 3相をそれぞれ100ポイント, 計300ポイントに時間軸を正規化した.さらに筋電位振幅を, 平均筋活動パターンの平均電位を100%に正規化した.個々のストロークを加算平均処理し, 平均筋活動パターンを作成し, 以下の結果を得た.
1.高齢全部床義歯群では咀嚼側, 非咀嚼側とも咬筋, 側頭筋前部のピークがはっきりせず, ピーク時における筋活動量の低い, デュレーションのやや長いなだらかな波形が認められた.
2.若年有歯群においては, 咀嚼側では咬筋, 側頭筋前部とも100ポイント付近をピークとする立ち上がりの鋭い波形を示し, 非咀嚼側ではなだらかな波形を示した.
3.両群で筋放電区間中の咀嚼筋筋活動様相が異なることが分かった.
以上から, 両群の筋放電区間の振幅値の時間的変化の様相を比較検討できる正規化筋電図包絡線は, 高齢者の咀嚼時筋活動の機能特性を若年者との比較検討からとらえる上で, 有用な手法であることが確かめられた.

著者関連情報
© 日本顎口腔機能学会
前の記事
feedback
Top