抄録
咽頭・喉頭領域の機械刺激および喉頭領域を神経支配している上喉頭神経の電気刺激は, 嚥下誘発に有効である.しかしながら咽頭領域を神経支配している舌咽神経の電気刺激は, 上喉頭神経に比べ嚥下誘発が困難であるといわれている.このことは嚥下に関するパラドックスと呼ばれており, 未だに解決していない.今回の研究の目的は, このパラドックスを解明することである.
咽頭・喉頭領域の嚥下誘発部位および神経支配を調べたところ, 機械刺激による嚥下誘発の高感受性部位は, 口蓋咽頭弓, 軟口蓋の後縁, 喉頭蓋の咽頭側外縁, 披裂喉頭蓋ヒダなどであり, これらの部位のうち, 口蓋咽頭弓, 軟口蓋の後縁は, 舌咽神経咽頭枝の切断の後, 嚥下誘発がなくなることから, 舌咽神経咽頭枝支配であることが判った.電気生理学的実験の結果は, 舌咽神経咽頭枝の電気刺激は, 上喉頭神経の電気刺激と同程度の嚥下誘発効果であったが, 舌咽神経舌枝の電気刺激は嚥下誘発に効果がなかった.また, 舌咽神経咽頭枝と上喉頭神経の同時刺激は嚥下誘発の促通を生じ, 舌咽神経舌枝と上喉頭神経の同時電気刺激は嚥下誘発を抑制した.これらの結果より, 舌咽神経のうち咽頭枝が嚥下誘発に重要な役割を果たしており, 舌枝は嚥下誘発に重要でないことが判った.パラドックスが生じた理由として, 過去の研究では舌咽神経舌枝のみ, あるいは舌咽神経舌枝と咽頭枝を同時に刺激していたのではないかと考えられる.