社会学研究
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論説
津波被災後の医療専門職による健康づくり活動
岩手県陸前高田市りくカフェの事例から
板倉 有紀
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2019 年 103 巻 p. 115-137

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抄録

 本稿では、近年保健行政で用いられる「ソーシャルキャピタル」に注目し、被災地における行政と専門職らの協働におけるソーシャルキャピタルの内実について、コミュニティカフェの事例から検討する。岩手県陸前高田市は、行政レベルで、外部支援者の保健師と医師の協力のもと、「ソーシャルキャピタル」を明確に意識した取り組みを行っている。震災後の社会状況や文脈において、その理念に適合的なかたちでコミュニティカフェが、市内の医療専門職らにより運営されるようになった。その運営の基盤には結合型のソーシャルキャピタルというよりも、職業やPTAといった橋渡し型のソーシャルキャピタルが活かされていた。コミュニティカフェの利用者らもその利用を通して健康増進に必要な様々な資源にアクセスしていることが分かった。被災という文脈において、行政と地域の医療専門職らが偶然にも協働しあう基盤が構築された一つの事例として位置づけられるとともに、地域の医療専門職の専門性という観点からみると、事業立ち上げを含む地域保健への介入と協働という点で地域づくりへの積極的関与ということが、震災前の通常の専門性とは異なることが示された。

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© 2019 東北社会学研究会
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