2015 年 95 巻 p. 49-74
本稿の課題は、アーヴィング・ゴフマンの後期の著作『フレーム分析』(Goffman 1974)において提示されている「人-役割図式(person-role formula)」概念を、ゴフマン独自の「状況の定義」論として展開されている『フレーム分析』の問題設定、概念枠組との関連において検討し、その意義を明らかにすることである。
人-役割図式概念を検討するにあたって、まず、二節では、『フレーム分析』の基本的な問題設定や概念の検討を行う。この作業を通して、「アクティヴィティー」概念が状況が定義された状態を記述するために設定されていること、「フレーム」概念がアクティヴィティーの獲得や変化を生み出している原理として設定されていることを確認する。三節では、二節の作業を踏まえた上で、人-役割図式概念やその関連概念(役割-役柄図式、バイオグラフィー)の検討を行う。こうした作業を通して、人に関する認知が「状況の定義」が獲得され、変化していく際の重要な資源を構成していることを示す。
四節では、三節までの作業を踏まえた上で、人-役割図式論の要点を整理する。最後に、人-役割図式論の意義を、個別の状況や「状況の定義」の多層性のもとに、そこに参加している人々の自己の立ち現れ方の多層性を描き出していく視角の提供として結論づける。