抄録
ポンプ系管路の流量制御に最も多く使用される弁の一つに仕切り弁がある.この弁は,全開時には流れの抵抗が少なく,全閉時には水密性がよいため,開閉操作の少ない管路に適したものである.しかし,流量の正確な調整が比較的容易であることから,弁による損失水頭が大きいという欠点にもかかわらず,半開状態で使用することも多い.弁開度があまり大きくない状態では,弁下流にかなりの低圧領域が生じ,前後の圧力差が特に大きい場合には,弁体近傍のはく離流線にキャビテーションが発生し,管内流速が増加するにつれて,それは下流に発達し,振動や騒音を生ずるもととなる.このため,仕切り弁におけるキャビテーション性能を明らかにすることは有意義なことと考えられるが,これを取り扱った研究は数少ない.本報告は,仕切り弁の流れに,自由流線をもつ二次元ポテンシャル流れの理論を適用し,その解析が実験結果を十分説明することを示したものである.すなわち,流れは弁体の前端ではく離して自由流線を形成し,はく離直後における流速は,弁の無限下流における流速より大きいと仮定したものである.この流れ場を半無限平面の上半面に写像して解析し,弁体下流におけるはく離流線の形状と,収縮係数を計算した.つぎに,流れ場において圧力の最低値をとるはく離流線上の圧力が,そのときの水の温度に相当する飽和蒸気圧に等しくなったときにキャビテーションが初生するものと仮定し,上の理論より臨界キャビテーション係数を導いた.観測によると,弁体からはく離した流れは,まず収縮し,その後,広がって管上壁面に再付着することが明らかである.したがって,弁における損失水頭を,弁体から最収縮部までの損失水頭と,その後の急拡大損失水頭の和と考え,さらに流れの収縮過程における損失は急拡大による損失に比較して無視できるものと仮定し,流れ方向に運動量法則を適用して,弁における損失水頭の式を導いた.得られた式に上述の収縮係数の理論値を代入して,仕切り弁における損失係数の値を計算した.実験は一辺が37.1mmと55.1mmの正方形断面の仕切り弁を用いて行った.圧力は弁前後の11箇所の管壁において,精密なブルドン管圧力計により測定した.管内平均流速は,直角三角ぜきにより計量された流量を管断面積で除して求めた.また実験は水温8〜12℃でなされた.自由流線を考慮した二次元ポテンシャル流れの理論より得られた結果と実験値とを比較して,つぎの結論が得られた.1)弁体下流ごく近傍の流れは,上述のポテンシャル流れによって近似できる.2)実験結果によると,臨界キャビテーション係数は弁の開度の関数と考えられ,その値は理論解析の結果とほぼ一致する.3)仕切り弁の流れに運動量法則を適用し,さらに理論的に求めた収縮係数を用いて得られた弁の損失係数は,実験値を十分説明する.