自分とは反対の性格特性を持つ他者が,異なる民族の一員であった場合,人はその性格の違いを民族性が原因であるかのように解釈する場合がある。日常生活においてみられるこのような過度な一般化は、民族に関する偏ったステレオタイプを形成する一因となる。本研究は、個人の特徴に関する知識が、カテゴリーに関する知識へと一般化される状況と、それに影響を与える個人差要因に着目した実証的研究を行った。個人差要因として、心理的本質主義信念を測定し、民族カテゴリーに行動や認知の原因となる本質的因子の存在を錯覚しやすい人ほど、他民族他者と自身の違いを民族性の違いとして一般化する傾向が強いと予測した。実験参加者は全て日本人学生であったが、実験参加のパートナーという名目で「留学生」(実験1ではインドネシア国籍、実験2では中国国籍)あるいは「日本人」の実験協力者と同時に実験に参加した。実験では、参加者および実験協力者に対して認知傾向を調べるテストを行い、テスト後に偽のフィードバックを与えた。フィードバックとして、パートナー間にみられる認知傾向の類似性(同じ・異なる)を操作した。その結果、パートナー間の類似性に関する情報を日本人および留学生全般に一般化する程度は、パートナーの国籍とフィードバックの類似性の組み合わせによって異なることが明らかとなった。具体的には、留学生パートナーとの間に認知傾向の違いが告げられた参加者において、その違いを日本人および留学生カテゴリーに一般化し、民族間の差異を過度に推測する傾向がみられた。同様の一般化傾向は、日本人パートナーと同じ認知傾向があると告げられた参加者にもみられた。しかし、留学生との違いを民族間の差異に一般化した前者の場合のみ、その程度が心理的本質主義信念の強さと関連していることが明らかになった。本研究により、異なる民族他者との交流で得られる些細な情報からも、民族に関するステレオタイプが形成される可能性が示唆され、それには民族カテゴリーに関する信念の個人差が影響を与えることが明らかとなった。