2007 年 50 巻 2 号 p. 126-132
本研究の目的は,ワンボトルワンステップ接着剤であるClearfil tri-S BondとG-Bondの採取後の放置時聞が,エナメル質および象牙質への接着に及ぼす影響について検討することである.ヒト抜去大臼歯のエナメル質または象牙質平坦面を,#600のシリコンカーバイドペーパーで研磨して被着面を得た.被着面には,恒温恒湿下で採取してから0,5,10,30分間遮光しておいた接着剤を用いて業者指示に従い歯面処理を行い,コンポジットレジンを築盛・硬化させた.試料体は,37℃水中に24時間保管後,連続切片を作製してマイクロテンサイル試験法で微小引張接着強さを測定した.接着強さの値の比較にはone-way ANOVAとDunnett testを用いて有意水準5%で統計処理を行った.採取してから30分後までの接着剤の重量変化についても測定した.放置時間の比較では,エナメル質の0分後と30分後との間に有意差が認められ,Clearfil tri-S Bondでは30分後に有意に高い接着強さを示し,G-Bondでは30分後には有意に低い接着強さであった(p<0.05).一方,象牙質では有意差が認められなかった.Clearfil tri-S BondとG-Bondの重量は放置時間とともに減少し,30分後にはClearfil tri-S Bondが82.7%,G-Bondが52.0%まで減少した.以上の結果から,ワンボトルワンステップ接着剤採取後の長時間の放置は,接着剤の溶媒の蒸発によってエナメル質に対する接着強さに影響を与える可能性が示唆された.