日本歯科保存学雑誌
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原著
エナメル質再石灰化病巣の物理的・化学的安定性
冨永 貴俊向井 義晴杉崎 新一郎岩谷 いずみ寺中 敏夫
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2008 年 51 巻 3 号 p. 226-235

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抄録

再石灰化したエナメル質脱灰病巣が物理的,化学的に安定した性質を有することは臨床的にきわめて重要である.本研究では,エナメル質脱灰病巣をフッ化物を添加しない環境下で再石灰化させ,それに伴うミネラルと微小硬さの回復を検討するとともに,耐酸性獲得を顕徴ラマン分析により考察した.脱灰したウシ歯冠部エナメル質を6週および12週の再石灰化後,さらに耐酸性試験を行った.それぞれの段階でTransversal Microradiogram撮影し,ミネラルプロファイルを作成した.病巣断面の硬さは,表層10μmから200μmまで10μm間隔にて測定した.ラマン分析は,病巣および未処理部分の表層から約10,50μmおよび100μmの位置の炭酸基とリン酸基の変化を測定した.ミネラル密度は,6週の再石灰化により健全エナメル質に類似したプロファイルにまで回復し,病巣体部付近でも健全エナメル質の約9割近くの回復を示した.12週でも6週と同様のミネラル密度を示した.一方,病巣体部の硬さは,6週の再石灰化後では健全エナメル質の4割程度,12週後では6割程度の回復にとどまった.6週再石灰化後の耐酸性試験では,病巣深度70μm付近までは健全エナメル質の脱灰に比較し高いミネラル密度を維持したものの,75μm付近では逆に脱灰が進行する二相性のプロファイルが認められた.12週後では病巣全域で健全エナメル質の脱灰よりも高いミネラル密度が維持された.ラマン分析では,健全部に比較し再石灰化部位の炭酸基に対するリン酸基の割合の増加が確認された.これらの結果から,再石灰化により脱灰病巣へのミネラルの取り込みは,6週までにほぼ飽和点まで回復するのに対し,物理的性質の硬さの回復はきわめて遅れて生じていることが示され,結晶の生成や成長方向などが起因しているものと考えられた.また,再石灰化エナメル質の耐酸性が向上する現象には,アパタイト結晶のリン酸基の割合の増加が関与している可能性が示された.

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