日本歯科保存学雑誌
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原著
酸反応性フッ素含有ガラスフィラーの歯面コート材への応用
井殿 泰造作 誠太郎山本 宏治
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2009 年 52 巻 3 号 p. 237-247

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抄録

本研究の目的は,S-PRGフィラーを含有する歯面コート材を試作し,物性,抗プラーク性および生体親和性などについて検討することである,本実験には,酸反応性フッ素含有ガラスフィラーであるS-PRGフィラーを含有する歯面コート材(BW)および比較市販製品として,ホワイトコート(WC)を用いた.なお,BWに関しては,表層に生じた未重合層を除去する目的で業者指定の表面処理材であるグロスエフェクトを塗布後,再照射,水洗した群(以下,BW-GEと略す)および表面研磨材であるグロスポリッシャーにて表層を研磨した群(以下,BW-GPと略す)について検討した.物性試験として,曲げ強さおよび曲げ弾性率,ヌープ硬さ,X線造影性試験,表面粗さ試験,歯ブラシ摩耗試験を行った.次に供試材料の走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)による観察を行った.抗プラーク性試験は,口腔内に供試材料を装着し観察した.細菌付着性試験および抗菌性試験には,Streptoccus oralisを用い検討した.また,供試材料を滅菌蒸留水および細胞培養液に24時間浸漬し,溶出した構成元素の定量を行った.細胞毒性試験としてはHeLa細胞を用い,毒性を検討した.BWはWCに比較し,曲げ強さおよび曲げ弾性ともに高く,ヌープ硬さにおいては,BWはWCの約3倍程度の強度を有していた.X線造影性はBWに認められるものの,WCには認められず,表面粗さ試験では材料間に有意差は認められなかった.歯ブラシ摩耗試験において,BWはWCに比較して摩耗性を認めた.各供試材料をSEMにて観察した結果,BWでは約1〜15μmの粒径のフィラーが観察された.TEM観察の結果,BWには約1μmのフィラーとナノサイズのフィラーを確認し,WCにおいては,100nm以下のナノフィラーが観察された.8時間口腔内に装着したBW-GEの表面および割断面のSEM像から,その表面に局所的な細菌の付着が確認されたものの,BW-GPにおいては,細菌付着が認められなかった.一方,WC表面には細菌の付着が認められ,BW-GP表面に比較すると細菌の付着性に明らかな差が認められた.付着性試験では,BW-GEおよびBW-GPへの細菌付着性は少ない傾向にあった.また,唾液で処理した材料表面への付着性ではBW-GEおよびWCへの細菌付着は確認されたものの,BW-GPへの付着はほとんど認められなかった.BW-GE,BW-GPおよびWCにおける24時間後の抗菌性試験においては,材料間に有意差は認められなかった.滅菌蒸留水中に溶出した元素を材料間で比較すると,BWはB,Srが高く検出され,またWCではNa,Fが高く検出された.培養液に溶出した元素に関しては,蒸留水に溶出した元素と同様の検出結果が得られた.細胞毒性試験において,BWでは98.4%,WCでは61.8%の相対細胞増殖度が確認された.これらのことから,BWは歯質を切削することなく審美修復することのできる材料であり,S-PRGフィラー配合による抗プラーク性を有し,また,物性試験や細胞毒性試験等から得られた成績も良好であったことから,臨床応用への可能性が示唆された.

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© 2009 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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