日本歯科保存学雑誌
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原著
β-cryptoxanthinがメカニカルストレスに対する歯根膜のサイトカイン産生に与える影響
山本 俊郎市岡 宏顕山本 健太赤松 佑紀西垣 勝大迫 文重雨宮 傑坂下 敦宏中村 亨喜多 正和金村 成智
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2011 年 54 巻 2 号 p. 88-96

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抄録

ヒト歯根膜由来細胞(hPDL細胞)は,歯周病原因子であるメカニカルストレス(mechanical stress;MS)や歯周病原菌に対して多くの炎症性サイトカインを産生する.そして,これらの炎症性サイトカインは歯根膜の炎症を惹起させ,歯根膜をはじめとした歯周組織に影響を与えている.近年,温州みかんに多く含まれるβ-クリプトキサンチン(β-cryptoxanthin;β-cry)には,歯槽骨吸収を抑制する作用があるとされるが,歯槽骨と同じ歯周組織である歯根膜に対するβ-cryの影響は知られていない.そこで今回は,β-cryが生理的咬合圧と同等のMSや歯周病原菌Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis)に対するhPDL細胞のサイトカイン産生に与える影響について検討した.hPDL細胞は,抜歯後の歯根膜組織片を採取,10%FBS加DMEMで初代培養後,1×105cells/mlに調整した.次に,β-cry(1×10-7mol/l)を添加後(対照はβ-cryを非添加),MS(1ないし6MPa)(MS群)あるいはP.gingivalis(1×107CFU/ml)で刺激(細菌群),炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1β,IL-6,IL-8,腫瘍壊死因子(TNF)-αについてReverse transcription polymerase chain reaction法およびEnzyme-linked immunosorbent assay法で検討を加えた.そして,細胞形態は倒立位相差顕微鏡を用いて鏡検で確認した.β-cry存在の有無にかかわらず,細菌群ないしMS群の炎症性サイトカインIL-6とIL-8産生量が増加した.これらのサイトカイン産生量は,細菌群のほうがMS群に比べて有意に増加したが,β-cryの存在下では細菌群とMS群ともに産生量が減少した.さらに,β-cry添加/β-cry非添加の産生量の比は,MS群のほうが細菌群に比べて低値であった.なお,hPDL細胞の形態的変化はなかった.本結果から,口腔機能が生理的に営まれる環境において生じる咬合圧に匹敵したMSは,歯根膜のサイトカイン産生を誘導し,その誘導能は歯周病原菌と比べて弱いものであった.そして,β-cryはこれら歯周病原因子に対する歯根膜のサイトカイン産生を抑制するとともに,その抗炎症作用は歯周病原菌と比べMSに対して高いことが判明した.このことから,日常的なβ-cryの摂取は歯根膜のサイトカイン産生を抑制することから,この抗炎症作用を利用した治療薬としてのβ-cryの可能性が示唆された.

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© 2011 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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