日本歯科保存学雑誌
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原著
歯髄幹細胞を用いた臨床研究を目指した細胞加工施設への歯の輸送法の確立
庵原 耕一郎中島 美砂子
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2012 年 55 巻 4 号 p. 272-277

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抄録

目的:当研究室ではこれまで,イヌを用いた非臨床研究において,抜髄後の根管内に歯髄幹細胞を自家移植する歯髄再生治療の安全性および有効性を明らかにしてきた.しかしながら,この歯髄再生治療の臨床研究を行うにあたっては,細胞加工施設が診療室に併設されていない場合,抜歯した歯を細胞加工施設に輸送し,製造加工した細胞を診療室に輸送する必要がある.したがって,本研究では,「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に則り,12時間以内の歯の輸送のSOP(標準作業手順書)を作成し,歯輸送の安定性および安全性を明らかにすることを目的とする.材料と方法:特殊な運搬容器を用いて温度管理下で歯を輸送し,12時間後の細胞生存率および接着率により,最適な輸送液および抗菌薬の決定を行い,SOPを作成した.さらに,使用後の歯の輸送液,細胞加工施設アイソレータ内で培養した初代細胞培養液および最終的な製造加工産物である継代7代目の凍結歯髄幹細胞の安全性試験(細菌・真菌・ウイルス・エンドトキシン・マイコプラズマ検査)を行い,本SOPを用いた歯の輸送の安全性を検討した.結果:20μg/mlゲンタマイシン・0.25μg/mlアムホテリシンBを含有したHanks液を使用した場合,輸送12時間では生存率はほぼ90%であり,細胞接着率が高く,歯の輸送液として最適と考えられた.本SOPでは,歯輸送液中の好気性菌やエンドトキシンの値はやや高めであったが,最終的に凍結歯髄幹細胞では安全性試験項目すべてにおいて陰性となった.結論:以上のことから,本SOPを用いることにより,安全かつ安定的に歯を輸送できる可能性が示唆された.

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© 2012 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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